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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第17話 久々の屋敷

 道場を出て約1時間ほどしていつもの屋敷に戻ってきた。


 馬車が止まるのを確認すると進んで扉を開いて地面に降りる。周囲に異常はない。あるとすればこの体。いくら高価な座席だと言っても馬車の中で揺らされ続ければ凝り固まる。


 日差しは傾き始め、まもなくこの青い空を朱く染め始めるだろう。


「フー、やっと着いたな。馬車って結構疲れるんだな」


 声をかける先は馬車から次に降りてくるお嬢様。手を差し出して、支えとなる。このくらいは自分で気が付く。


「ありがと、……馬車に乗ったことなかったの? どうやってこの町まで来たのよ」


 馬車の階段すら優雅に降りる薔薇の姫。本当に優雅だったのか、彼女だから優雅に見えたのかは誰も知らない。


 それに、妙に感がいい。痛い所をつかれる。


「そんなことはどうでもいいからさっさと入ろうぜ」


 俺も優雅にそう話をそらして、屋敷に向かう。


 気が付けば夕食の時間となった。少しだけ休んだつもりだったか、時間が過ぎるのは早い。


 今日の夕食を一緒に食べるのはメイドのカレンさんと常にいるローズ。カレンさんは三メイドの中で一番背が高く明るい人。社交的? なメイドのカナと、逆にやや内向的なサキさんとは中間の性格の人。あまり話したことはない。朝はいつもあっちから挨拶をしてくれてすごく気持ちのいい人だ。


「いただきまーす」


「レンって、いつも食べる前に手を合わせてえっと……、『いただきます』? とか言ってるわね。それって何なの、信仰してる神様にお祈りしてるの?」


「ん、これは要するにお礼をしてるんだよ。別に俺は信仰してる神様とか特にないぞ」


 いや、厳密に言うと初詣とかに行くしあるのかもしれないけど。心から何かを信じていたりはしない。やる理由は単に文化というか、育ち? 環境がこうだったから。


「お礼? 誰に? 何に?」


 気になるのかローズは食事の手を止めてまで聞いてくる。


「それは……この料理の食材を作った人とか料理してくれたミキさんとかこの料理を作ることにかかわった人全員にだよ」


 そうはいうが、普段は特に深くまで考えていない。良いことなのか悪いことなのか、日常に溶け込みすぎているのだ。



 出された食事を静かに見つめ続けるローズ。何回かうなずいた後、決心したようにこちらを見た。


「なんか、そういうの良いわね。これから私もするわ」


「お、いいな。それなら食べ終わった後に『ごちそうさまでした』も言うんだぞ」


「それは、どういう意味なの?」


 ……あれってどういう意味だっけ?


 いただきますはそのままに分かるのだが、ごちそうさま……。一向に思い出せない。現代の薄っぺらい文化人の皮が剥がれていく。しかし、何も言わない事もできない。


「それはだな……あ、多分、『この料理すごくおいしかったです』だったような気が、する」


「そうなんだ、分かったそれも今度から言うわ」


 いつかきちんとした意味を思い出さしたら教えようと思う。


 それにしても、他の文化に対して適応が早い王女様だ。意外と王の器なのかもしれない。


「どうしたの? 冷めちゃうわよ?」


「なんでもない」





 夕食も終わり部屋に戻る。今日は疲れた。ゆっくりしようと思ってベッドに腰を掛ける。さすがに寝るのには早い時間だ。借りてきていた本を読もうと手に取る。向こうでいたときは月に一度くらいしか読んでいなかった本だが、この世界では娯楽が少ないせいかよく読むようになった。


 やはり心残りと言えばそのあたりだろう。最新ゲームの発売日も近かったし、あの漫画の続きも知りたい。……帰ることできるのだろうか? 施設のみんなも気になる。心配していないと良いのだが。


 ゴンゴンゴン


 そうしていると扉の方でなかなかに大きなノックが聞こえた。


「すいませーん。今開けまーす」


 もう夜なのに激しい人だ。ローズか?


「ごめんなさいね。寝ちゃってるのかなーって思って」


 予想とは違う結果が現れる。長身で茶色の長髪。つい先程まで一緒に食事を取っていたカレンさんではないか。意外だなあんなに強く扉を叩くとは思わなかった。荒いんだこの人。


 ……いや、これさっきから、ノックしてたパターンだな。


「すいません、気が付かなくて。中入りますか?」


「いえ、すぐ済みますので。―――明日の話なんですけど……」


「明日ですか? 何かあるんですか?」


 俺の信用ならない記憶が確かなら明日は特に何もなかった気がする。


「買い物に付き合ってもらおうと思って。大丈夫?」


「はい、全然大丈夫です。荷物も任せてください」


 町に行くのも久しぶりだ。今朝までこの屋敷内と広い庭が活動範囲内だったから興味も湧いてくる。今日は建物内ばかりだったし、街を歩いて見回れるいい機会だ。市場と路地裏を見ればこの国の良し悪しもよく分かるだろう。


「じゃあ、明日はよろしくね。おやすみなさい」


「はい。おやすみなさい」


「いい匂いだったな」


 つい口から出た言葉は何だったのか良く分からないが取り合えず明日は美人なメイド長とデート……もとい仕事だ。


 他にも結局魔術を使うのか剣を習うのか決めなくては。どっちを選べばいいんだろうか。


 そうして、長い一日が終わる。

読んでいただきありがとうございました。

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