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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第16話 俺の剣才

 扉を開けて部屋に入る。


「あ、やっと起きたのね」


 入室した俺に飛び込むのは大輪の花。二人の老人は華やかな孫娘に気圧されることなく楽しそう。


 外まで笑い声が聞こえていた紅いお姫様。他人の家でも我が物顔で過ごせる図太さは見習いたくない。が、これほどの笑顔を向けられてしまえば文句の一つも出てこない。


 王女だからわきまえることを知らないのか、彼女だからこうなのかはわからない。あのアネモネさんのようにお淑やかな姿も見たくなる。


「何よ、その目……。なんか私に文句でもあるの?」


 おっと、表情に感情が出てしまっていたようだ。失礼失礼。


 気を取り直して本題へと進む。


「いや何もありませんよ。アレで何か分かったと思いたいんですけど……、俺はどうなるんですか? この道場に入門させていただけるんですか?」


「まあ、まあ、そう逸らなくてもいいじゃありませんか。どうですお茶でも飲みながら」


 いつもと同じ執事服に身を包んだミキさんは直ぐにカップにお茶を注いでくれる。ミキさんの入れるお茶は絶品なので断るわけにも行けない。


「分かりました。いただきます。」


 ミキさんの隣に座り込む。床に座って何かを飲むのは随分と久しぶりだ。床は、畳に似ているが何か違うような気がする。


 そして、差し出されたのは屋敷でよく飲んでいる紅茶ではない。緑色。緑茶がこの世界にもあるらしい。カップで飲むのはどこか罪深い。


「さっきはすまんかったね。ちょっと本気出しちゃった。てへっ」


 このお茶目ともとれる発言をしたのはつい先刻俺を殺気? 気迫? で俺を圧倒しそのまま気絶させた張本人。


 初めて見た時とは別人だ。外見は変わらないが、人としての規模がまるで違う。この状況でなければ気が付かないかもしれない。


 第一印象がアレだったせいで全く気がほぐれない。この姿を見てから適性を見てほしかった。


「いえ、お手合わせ有難うございました。もう少し手加減していただけたらもっとよかったんですけどね」


「それで、この方、アレンさんは人の剣の才能を見極めることができるのです」


 多少空気が和らいだと見たミキさんは気になっていた話を促してくれる。自分で切った話は自分で繋いでくれるとは……。


「剣の才能? アレでそんなものが分かるんですか。凄いですね」


「別にあんなんせんでも見たらわかるぞ」


 偉そうにするでもなく、当然のことのように言ってのける。


 剣を交えただけで剣の才能が分かるだけで途轍もない能力だが、普通に見抜けるなんて何者なのだろうか? 


 ――それはそれとして。


「じゃあなんでしたんですか……」


「うーん。気分」


 くえない爺さんだ。


「アレンさん、あいつの才能、どうだったの? レンが起きるまで教えないって言われてて」


 やけに俺の剣の才能が気になるらしい。魔法の時はここまでではなかった。彼女自信魔法が使えるからそちらより、自分ができない才能の有無に気になるのだろうか?


「それはじゃな、―――百人に一人の才能といったところじゃ。磨けばもう少し伸びるやもしれん」


「おお、それっていいんですかね?」


 百人に一人の逸材、そういえば聞こえはいいが日本の人口に当てはめてみると1億数万人その中に百万人もいることになる。こう見ると実はそこまでよくないのではと思ってしまう。


「可もなく不可でもないといったところじゃな。じゃがこの道場で学べば1万人に一人の逸材にできると断言しよう」


 この爺さんやけに強気だ。俺が思っている以上に強い人なのかもしれない。もちろん人を見ただけで剣の才能を見極めることができる人がただものなわけないか。


「答えは急がんからゆっくり考えるとええ」


「はい、よく考えさせていただきます」


 そして、俺の結果を聞いてからなぜかやけに静かなお姫様の方を見る。見るからに落ち込んでいる。


 俺以上に期待してくれていたということだろうが、百人に一人の時点で十分嬉しい。


「お嬢様、どうしたんですか。僕の才能が何かお気に召しませんでしたか?」


「がっかりした」


「へ?」


「だから、がっかりしたって言ってんのよー!」


 とてつもない大声を耳元で聞かされたが俺の鼓膜は何とか持ちこたえた。もう一度言うがここは他人の家だ。言葉には出さない。自分から火種は巻きたくない。


「……何がですか?」


 変に反発するとまた怒鳴られそうなのでやさしめに聞く。二度目は耐えきれるか分からない。


 耳が遠いのか慣れているのか二人のご老人はニコニコと笑顔だ。


「あのお話の英雄はとんでもなく剣が強いって言ってたのに……」


 …………。


 とんだとばっちりだ。俺とそんな物語になるような人を比べられても困る。英雄様に比べたら俺は無力な一般人だ。逆にこれぐらいの差があってよかった。


「あのお嬢様、俺はあの話の英雄ではありません」


「そんなの分かってるわよー!」


 二度目も耐えきれることが証明された。三度目を確かめる事にならないように静かカップに手を伸ばす。


 念の為もう一度、ここは貴方の家じゃない。


 そして、不機嫌なローズをなだめながら帰路に就くのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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