第15話 剣の才能
「なんだここ? 道場?」
土壁に囲まれたどこか和風な屋敷。広々とした庭もある。そこには人を模した棒に何かを巻いた打ち込み的のようなものも見える。
入口の門には看板があり、最近習った言葉も書いていた。
「『は、ん、の、き』ってよむのか?」
やっぱり変な名前だ。明らかに何か武術を学べそうなところだが、この世界ではこのような形式が一般的なのか? 現代での武術の学び舎の在り方も知らないが、なんというか、雰囲気が凄い。
ここに来た目的は十中八九その武術の何かを習うためだろうが、魔法とかを使えるようにさせるんじゃなかったのか。
流れで行けばこれから適正を確かめるのかもしれない。結果次第では魔法の話はなかったことになったりするのだろうか? せっかく魔法がある世界なのだできればそちらを使えるようになりたいとは思う。
「あのここって何なんですか?」
一応近くにいたミキさんに尋ねる。知らないわけはないだろう。
「ええ、ここは剣を教える道場です。あなたに剣の才能があるかここの師範の方に見ていただくんですよ」
武術の中でも王道の剣の道場か。徒手空拳に比べれば期待は膨らむ。中学の授業でほんの少し剣道を学んだこともある。それに、身近に打ち込んでいたやつがいるから、最悪魔法が学べなくてもいい気がしてくる。
「お邪魔しまーす。アレンさんいますか?」
俺から遅れて降りてきたローズは跳ねるように進んでいく。
どうやらうちのお嬢様は面識があるようだ。
続いて俺とミキさんも道場の門をくぐっていく。庭は奥の方も広く綺麗に整っている。井戸らしきものもある。大きさといい、立地といい、良い屋敷だ。
「こちらへ。師範がお待ちです」
そんな屋敷に気をとられていたため、入口に現れた人に気が付かなかった。
そう言ったのは道場からこちらを見る二十歳を超えたくらいの青年。鼠色の髪に細い糸目。整った顔だがどこか胡散臭さを感じてしまうのは偏見だろうか。
ローズとも面識があるのか何やら世間話をしているが、俺に入る隙間はない。大人しく二人の背を追う。
そして彼に連れられ道場の奥に通された。
その奥には金色の髪で軽く顔に皺を刻んだ六十歳くらいの男性がたたずんでいた。木刀を二本持ちながら。
「――――」
人目でわかる。只者ではない。空気が違う。人の生死に深く関わってきた人物。
そして木刀一本を俺に向けて差し出された。どうやら今から俺は剣の才能を測られるようだ。早い。門をくぐって五分も立っていない。心の準備なんてものはないみたい。
いつの間にかローズとミキさん端っこで座っている。
俺が木刀を受け取り、間合いを作る。
そして老人は剣を構えた。老人の青い瞳はその年齢とは思えない覇気が感じられ、今にも斬り殺されるのかと錯覚する。全く害意を感じないというのに、底しれない恐怖を覚える。首筋に刃物を突きつけられいるようだ。
少し遅れて不格好だが俺も構える。……アイツは確か、こんな型をしていた。
―――少しの静寂が訪れる。一筋の汗が流れ、心臓の鼓動が激しく聞こえる。息を飲み込み、静寂を破って斬りかかろうとしたその刹那、――時が止まった。音が消えた。心臓の音すら。
『死』だった。首が落とされたんだ。仕方ない。
訳が分からない、俺は木刀を落としている。もちろん首は繋がっている。老人は動いていないのか? 今いたところから移動したようには見えなかった。が、俺は木刀を落としている。体の全神経が『死』を覚悟した。息を忘れていたのか急に意識が遠のく。酸欠だろう。死にはしないはずだ。今はそのことに安堵して―――
多分良く見知った顔。すごく悲しそうな顔をしている。どうしたんだろう。何があったのだろう。すごく他人ごとではない気がしてたまらない。
『どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうして』
叫んでいるのか。嘆いているのか。つぶやいているのかわからない。これは悪夢だ。そう自覚している。
俺は目覚めた。起き上がりあたりを見渡す。見たことがない部屋だ。
襖にも見える扉を開け外に出る。日はまだ落ちていない。
当てもなく歩いているといろいろ思い出してきた。気絶してしまったようだが……。何かほかに大切なことがあった気がしてならない。
「お早いお目覚めですね。こちらで皆様がお待ちですよ」
入り口で案内してくれたお兄さん。案内のままに彼の後に続く。
「えっと、俺どのくらい寝てましたか?」
「一時間ほどでしょうか? すごいですね。いつもなら半日は寝ている人がほとんどですのに」
「は、はあ」
“いつも”という事はこんな事をよくやっているのだろうか? それにしては道場には人の気配は少ない。王女が来るということで休みにするような人にも見えなかったが。
直ぐにある部屋の扉の前で止まった。中からローズ達の話声が聞こえる。目的地に着いたのだろう。
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