第12話 異世界ふぁんたじー
そして異世界二度目の朝だ。特に昨日の朝と何ら変わらず、目覚めもそこまで悪くなかった。強いて悪いところをあげるとするなら今日はどこかへ出かけるということだろう。
ベッドの寝心地は今まで感じたことがないほど気持ちが良く、疲れもあったからか熟睡できていた。
別に外に出かけることは嫌いではないのだが、昨日ローズが言っていた護衛に関係する話が不安だ。
寝間着から昨日渡されていた燕尾服風の服に袖を通す。当然だが着慣れない。硬い布地、動きづらさは折り紙付きだ。
今日はどこに連れて行かれるのだろうか? 勉学についてか? 俺に学ばせるのであれば学校か? 護衛という側面で考えれば兵士の訓練場に連れていかれたり、もしくはどっかの道場に放り込まれたりするのだろうか。取り合えず気が気でならない。
――なぜ、そこまでしてくれるのかという観点から。いくらなんでも俺に都合が良すぎる。命を救ったから? だとしても、よく分からない男を側において、至れり尽くせりなんてするものなのか?
犬を拾ったのとはわけが違う。
…………。
悪い人たちには思えない。だけど、やはり警戒はしておくべきだ。この世界について何も知らない俺はそれぐらいしか自己防衛ができない。
そして流れ変わらず、朝食を済ませ、用意していただいていたこの世界の一般的な服に着替えることになった。燕尾服では行かないらしい。
よく考えれば有名な王女の近くに急に年若い執事が現れて、丁度その王女は何かを理由に城ではなく屋敷で暮らし始めた……。変な想像を働かせる者がいるかも知れないという配慮だろう。
一言で表すなら、少し淡い黒を基調とした整った服。燕尾服と比べれば庶民的だが……触れた感触は全て高級なもので構成されていそう。貴族が庶民の服を再現した結果。
こんな服でどこへ行こうというのか……。
そう思いながらローズを先に待たせないよう早いうちに玄関に向かう。
小走りにやってきた俺を上から下、下から上と見定める薔薇の姫。
「うん、こういう服着ればまともそうに見えるわね」
「開口一番がそれですか……いつもの服もここの人たちが用意してくれたいいものなんですからね」
はぁ、とため息をつきながらそう答える。何気にこれまではまともに見えていなかったことが分かった。
そして彼女がそんな言葉を投げかけたのは地上からではない。玄関の前には大きく馬車が止まっている。その窓からまさしく王族らしく優雅にこちらを見ているのだ。
俺も遅れないように用意していただいた馬車に乗り込む。中も意外と広くいい感じにゴージャスだ。
横に長い馬車はさながら電車みたいに向かい合うように座ることができる。俺は窓から離れローズから斜め前辺りに腰をおろした。
走りだすと揺れもほとんど感じず景色が流れ出す。初めての良い馬車ライフを送れそうだ。
「いったいどこに連れて行くつもりなんだ?」
「馬車に乗り込むと敬語取れるんだ。ふーん」
何か不思議なものを見る目をしている。
「人目を気にする必要がないからな。安心してくれ人前だと気を付けるから」
言葉遣いは一応は気にしていることだ。王女にタメ口など不敬極まる。表で使えば叱責されるかもしれない。最悪、王女の恋人などと噂されれば申し訳が立たない。
なら、全て改めるという方法が一番安全だが、今更直すのも感じが悪い。
「はいはい……、でどこに行くかだったわね。まずはこの国の三大重要施設の一つコモン・バーベンに行くのよ」
「そのコモン何とかってのはどんなとこで何しに行くんだ?」
変な名前。という言葉を飲み込みそう尋ねた。
「コモン・バーベンよ!。歴史と伝統があるすごいとこなんだから。何の施設かって言うとそれは―――」
言葉の続きを言いかけた時、ちょうど馬車が止まった。ローズは一度視線を窓から外に向けるとイタズラっ子みたいな無邪気な笑みを浮かべる。
「……。見たほうが早いわ!」
そう言い自分でさっさと降りて行ってしまった。
続いて降りた俺はあまりの凄さに声が出せずにいた。
「――!」
「どう?ここがこの国唯一の魔道専門施設、コモン・バーベンよ!」
デカく荘厳。雰囲気がやばい。
魔道施設コモン・バーベン、外装は威厳があり古さを感じさせない石造りで高さは50mはあるだろう。施設と言うくらいだ、様々な建物の集合だと思ったのだが。一つの建物のようだ。
ローズの屋敷からも見えていた大きな建物はここだった。そういえば少し前に会っていたちびっ子少年、もといフユがここの紹介も言っていた気がする。
よく聞いていなかったが、あいつは元気にやっているだろうか? 俺はなんかすぐに生活基盤を手に入れられたよ……。
気を取り直して、ローズに本題を聞いてみる。
「こんな所で一体何をさせるおつもりですか?」
「決まってるでしょ? ついてきなさい」
一体何が決まっているのだろうか?
堂々とその施設の入り口に歩いていく。俺の腕をつかんだまま。
「ちょっと待ってくださいよ。ま、まだ心の準備が」
俺の言葉は聞こえていないようでそのまま連れていかれる。想像以上に力が強い。
そのまま施設の中に入った。内装も外装に劣らないほど古く味のあるものだった。だが驚いたのは外見と中身の広さが違うところだった。明らかに一、二回り大きい。これも魔法の力なのか?
そして、俺とローズは先に来ていたミキさんが部屋に案内してくれて、奥の部屋に通された。一応エントラスみたいなところでは一般人もいるようだったから、そのための配慮だろう。
その狭い個室には机とその上に乗る物しか置かれていない。
「これに手を置いて」
水晶玉のようなものを指さしている。ただ透き通るだけではなく球体の中心に白い靄がある丸い石。俺は製氷機から取り出される氷をイメージした。
「何これ爆発しませんよね……?」
「まあ見てて」
恐る恐る手を置く。感触は水晶玉に違いないのだが何かおかしな感じがする。冷たい? いや、金属のような熱を奪われる感覚。
すると水晶玉が光りだした。それも消えそうな蝋燭の光ほど小さく。
「えっと、これは一体何なんですか?」
なんとなく俺にはピンと来ていた。これはあれだ魔力とかなんかを測るやつか? オタク文化には深く関わりがある、要するに魔力診断のようなイベントに違いない。
色が属性になるのだろうが、よく分からない。見て伝わってくるのは光の小ささ。少し薄暗い個室だから見えているが、明るい場所であれば見えない大きさ。いろいろ気になるがどうなんだこれは?
水晶玉に向けていた意識をローズに向ける。
「これは……」
「はい……」
ローズとミキさんが顔を見合わせている。どう見ても驚いている。もしかして結構すごいのか? 気が付かないうちにチート能力を得られていたのか?
いつの間にか高まっていた脈を落ち着けながらローズの答えを待ちわびる。
「あのね、レン。心して聞いてね。これは魔力を測定する水晶玉なんだけど……。――――あなたの魔力すっごく少ないみたい」
「へ?」
…………。
溜めに溜めた答えは真逆のもの。
「いや一般人はそもそもほとんど持ってない人が多いからその人たちに比べればあるんだけど……。一般的な魔導士の平均以下ね」
衝撃の事実。やっぱり俺にチート能力は備わっていなかった。うすうすは気づいていた、夜部屋でかめはめ波しても出なかったから。……しかもその姿をメイドのカナに見られたし。
「魔導士にはなれますが険しい道のりになるということですよ。なれないわけではありませんのでそう気を落とさないでください」
ミキさんが慰めてくれる。ありがとうございます。だけど、その優しさが今は辛い。
「どうです? 一応魔力の適性を見てみましょう」
読んでいただきありがとうございました。




