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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第11話 綺麗な月の夜に

ここまで来ていただきありがとうございます。

「綺麗な月ですね」


「ええ、とっても」


 少しの沈黙。


 屋根のないバルコニーから空を見上げる男女。青い女性は青空を憂うように、黒い青年は闇夜に輝く(ひかり)を焦がれるように。


 空に浮かぶ星星は穏やかな光を二人に注ぐ。


 涼し気な風が気持ちいい。目を瞑って空気を吸い込む。静かな夜を飲み込んだみたいだ。


 目を開くと、彼女が穏やかにこちらを見ていた。邪魔にはなっていないようで良かった。


「今日はこちらに泊まられるのですか?」


「……やっぱり勘違いしているようですけど……その……、私はロー―――」


「あっと! 失礼しました。ここは言ってしまえばあなたの家族の屋敷ですのでおかしなことではありませんでしたね」


 整った眉をひそめ困っている様子に、慌てて自分から名乗りを行う。ローズの親族であれば間違いなく高貴な身分の方。名乗りは自分から行うのが礼儀なのかもしれない。


 そしてまたやってしまった。またもや早いうちに言葉を遮ってしまった。こう熱が入ると先走ってしまうのだ。


「もういいです……」


 どうやらあきれられてしまった。しかたない、第一印象は悪くともまだ挽回のチャンスはあるはずだ。何とかして好印象を残さねば……。


 

 ―――何で俺はこんなにこの方に()()()()()()()()しているんだ? 


 不自然だ。綺麗な人だとは思う。でも、俺はこの方に好意を抱いていない。俺の心にはまだ()()()がいる……。思いは消えていないはずなのに、――同じぐらい彼女が魅力的に見えてしまう。


 これが一目惚れ?


 ――――絶対に違う。俺の思いは本物だ。本物なんだ。声も姿も直ぐに思い出せる。例えどれほど整った顔立ちをしていようが、笑いかけられようが、抱きしめられようが、()()()に並ぶわけがない。


 いつからだ? 初めて会ってからローズと話した時まではその事をずっと考えてた。ローズとの一件で忘れたのは偶然か? 好意より心配が勝ったからか? 


 魔法。


 全くありえないという話ではない。異世界に召喚されるような世の中、そんな魔法があってもおかしくない。洗脳だとか、魅了みたいな見てるだけで発動する人を虜にする力。


 本当に魔法かどうかはともかく、とりあえず離れたほうがいい気がする。このままだと、――。


「……では、おやすみなさい」


「? 話があるのでは?」


「いえ、大丈夫ですから……」


「あ、ちょっと――」


 考えることが山積みだ。取り合えず部屋に戻ろう。頭を叩く、アイツのことを考える。大丈夫。まだ大丈夫。ちゃんと、アイツのことは忘れてない。好きなままだ。


 ついさっき通った廊下を歩き、階段を下る。そして俺の部屋の扉が見えた。すると、急に背後から騒がしい足音がドタドタと聞こえてきた。


 この屋敷でこんな歩き方をするのは一人しかいない。


「待ったー! 何か私に用があったんじゃないの?」


 ハアハアと息を切らせている紅い人がいる。うんもちろんローズ様だ。


「ローズ、今お客様も来てるんでしょ? そんな夜にドタドタ足音立てて廊下を走るなんてはしたないんじゃないのか?」


 しかしこれは好都合だ。昼に聞けなかったことを聞くことができる。特に青髪の方の話は聞いておきたい。


「それは、……まあ、分かってる、けど……」


「取り合えず入る?」


 すぐ目の前の俺の部屋を指さす。


 頷いた彼女を確認すると部屋に入り、最近ミキさんに教えていただいた紅茶を入れてみる。寝る前にはあまり良くはなさそうだが、代わりに出すものもない。


 一応部屋の扉は開け放しておく。女主人が男の使用人の部屋に夜に入るという構図が少しでも和らげばいいのだが……。


 ローズは紅茶を一口飲み本題に入る。ぼそっと「意外とおいしい」を言ったのはちゃんと聞こえてたりする。


「話ってのは俺の今後の話だ。一応あの執事の話を受けることにするよ」


「ええ、聞いているわ。護衛も兼ねてでしょう。護衛とか必要ない気がするんだけどミキ爺が言うんなら仕方ないわね」


 やっぱりミキさんは先に話していてくれたらしい。


「――それで明日の外出もそれに関係してるわ」


 それは初耳だ。きちんと外に出るのは久しぶりだが、少し緊張する。何も知らない時であれば、感じることはなかったが、改めて得られた未知すぎた知識とか、数日間切り離されていたことが原因だろう。それも直に慣れるとは思うが。


 次は、俺が今一番気になっている事。


「もう一個話があるんだが……」


「青髪の人の話?」


「ああ、あの方はどこの何様なんだ? 悪い人には見えない気がするんだが」


 最初に抱いた疑問とはまた違う意味を含んだ言葉。初めて見た美人の名前をただ知りたいのではなく、心が惹かれる理由が欲しかった。


 少し考えた後、落ち着いた様子でローズは続ける。


「ええ、悪い人ではないと思うわよ。今は彼女ことを私の関係者って覚えてくれたら大丈夫よ。そうね……名前はアネモネよ」


「へーアネモネさんね。関係者……、お前の家族みんな花の名前から来てるのか?」


 花については詳しくないが、俺が前住んでた施設で花を育てていたから一般的な名前なら知っている。


「そうよ。この国の成り立ちは本で読んだでしょ? それから王の家系は代々花の名前からとるようになっているの」


 そうなんだ。命の花(マザーフラワー)の事だよな……。国の根幹となる部分に大々的に花が関わったために、一族は花から名前を取っている。いい話だ。


 そして、少し気になる事ができた。


「ちなみに庶民も花の名前からとってもいいのか?」


「昔の決まりだから、そこまで厳格に守られていないけど禁止されているわ。花の名前をそのまま使うの少し憚られるから、一文字変えたりしている人が多いかしら?」


 俺の名前、蓮は花の名前。俺がイメージする花とレンという音が繋がっているのかはわからないが、ひとまずセーフだろう。


「話が脱線したがその人は何しにここにきてるんだ? 別にお前を連れ戻しに来たわけでもないだろ」


「それは……、えー、そう! 私が元気かなーって心配して様子を見に来てくれたの」


 何か様子がおかしい気がするが……。家族のアレコレは俺が口出しをするところではない。


「あの人とは仲いいんだな。姉妹全員中悪い人だけじゃなくて良かったよ」


「そ、そうね」


 その言葉と同時に空になったカップを差し出してくる。結構お気に召していただいたようだ。図々しいがちょっと嬉しいから一杯注ぐ。


「アネモネさんのことで気になることがあったんだ。あの人と何回か話す機会があったんだけど、なんか変にあの人の事をすごく意識してしまう? 気になる? ようになっちゃうんだけど、何か理由を知らないか?」


「え! 恋?」


「違うわ!!」


 そうとられても仕方ない言い方をしたのは自分だが、それは棚に上げておこう。


「なんて言えばいいんだろ? 頭にそう思わせてくる……暗示とか催眠に近い気がするんだよ。現に今はまったく気にしてないし。そういう魔法とかあるのか?」


「ああ、そういうことね……。やっぱり調整できてないみたい」


 一人でぶつぶつ言ってる。分かったんなら説明して欲しい。もちろん魔法とか全然知らない人向けに、簡単に。


「取り合えずそれは魔法なんかじゃないわ。そういう説明は明日外出したら説明するけど。彼女と話す時は目を合わせない、近づきすぎない、意志を強く持つ、体をつねるとか持つで少しは軽減できるわ」


 思った以上に簡単な方法。そういう対策があるのか。それなら案外できそうだ。


 急に驚いた表情をする。


「―――あれ、待って、なんで解けてるの……? あれは発動したら最低半日は続くのに……?」


「? どういうことだ? 初めはそのくらい続いてたけど。二回目にあったときは話していると急に頭が冷えてきたって言うか冷静になれたな」


 あんな無差別催眠半日以上続くの結構大変そうだ。人に気に入られないのも気の毒だが、誰彼構わず好かれるのもそれはそれでつらそうだ。……だから常に、一人でいたのかもしれない。


 そんな考えそっちのけでローズは何か俺の知らないことを考えている。


「レンはその時と何か違うことはしたの? 例えばケガをしたとか」


「そんなことはないけどな……。そう言えばこのペンダント最初はつけてなかった気がするが、そんなの関係ないよな?」


 首に掛けていたペンダントを見せる。銀色の鎖と小さな淡いピンクの宝石の首飾りだ。最初合った時はミキさんが部屋を訪ねてくる前に日課のペンダント磨きをした後にそのままつけるのを忘れてしまっていたのだ。これがよくあるのが困る。


「ちょっと見せてみて?」


 首からとって手渡す。少し触ってよく見ている。


「これ、すっごく貴重な物じゃないかしら? こんなものどこで手に入れたの?」


「貴重って言われればそうだな……どこっで言われても知らないんだよ。両親の形見みたいなもんなんだ。これがどうかしたのか?」


 施設に預けられた時に一緒に入れられていたものらしい。今もどこかで生きているのだろうが、捨てられたのだ、形見として受け取っていても文句は言わないだろう。


「知らないんならいいの。明日まで借りていてもいい?」


「いいけど……手荒に扱うなよ」


 はいはいと言いながら丁寧に扱ってくれた。


 結局このペンダントが原因だったのかよく分からなかったがローズが何か気づいたようなので大丈夫だろう。


「話は終わりか?」


「ええ、もう終わりよ」


 そう言うとローズは立ち上がり部屋を去っていった。結局お茶を四杯飲んでいった。気に入っていただけたのか知らないがどことなく勝った気分。そして、彼女は今日はねむれるのだろうか……。ローズの安眠を祈りつつ俺もベッドに入った。

読んでいただきありがとうございました。

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