第113話 恐怖体験
夕食も終わり、自室に戻ろうとした時だった。屋敷の入り口に向かうサキさんを見かけた。
「どうしたんですか? こんな時間に」
「レンさん。どうやら、裏門が開いているようです。確かに午後に閉めたはずですが……。それを閉めに行こうと思いまして」
サキさんは振り返ると不思議そうにそう答える。
「俺が行きますよ。夜ですし」
敷地内と言っても裏門はあまり人通りの多くない道につながっているところだ。こんな時間に女性を向かわせることもないだろう。
「……そうですね。お願いします」
少し考えた後、ペコリとお辞儀をする。
「すぐ戻ります」
俺はそう言って、屋敷を飛び出す。
夜の庭は明かりがなくそこそこ暗い。明かりと言えば屋敷の窓から零れる光か月光なのだが、屋敷からこうも離れると零れる光も心もとなく、今日は新月のようで月明かりは頼りにならない。
普段通る道も夜の闇に染まると初めて来たかのような新鮮さを感じる。花たちは蕾に戻り静かに夜が明けるのを待っている。
裏門はここから大体百メートルほど。急げば往復四十秒もかからないだろう。暗い庭に少し怯え自然と急ぎ足になる。
……
……………
……………………
何らおかしなことは起こらず裏門に到着した。そのことに静かに安堵する。そんな自分を何に怯えているんだと笑ってしまう。
「何がおかしいんですか? 執事さん?」
暗闇の中そんな声が聞こえた。その声は女性の物だったが、幼い少女のようなものであり、妖艶で成熟した女性の物にも聞こえる。
突然の事に体を震わせ、直ぐに聞こえた方に振り向く。そこは裏門から続く道の先だ。そこには人が一人立っている。
艶やかな長髪の黒髪に血のように赤い瞳に唇、それを際立たせる病的にまで白い肌。そして、一番驚くべきところは…………
「着物……?」
黒い着物を纏っていた。俺の故郷日本で見慣れたあれだ。中世チックな世界には不釣り合いな服をどうしてこの世界で?
「貴方も知っていらしたんですね。似合っているでしょうか?」
ゆっくりとその場で一回転をする。まるで子供が大人に褒めてもらおうとするかのようにそれは嬉しそうに。
「……似合ってますよ。それよりこんな時間にどうしたんですか? お嬢様に御用ならば、日を改めていただきたいのですが」
恐怖を表情に出さないよう細心の注意を払い丁寧に対応する。
「あ、そう言うわけではないんです。私の目的は貴方ですから」
手を胸元で合わせ俺を見つめる。その血のような瞳で。
「……俺ですか?」
全身が総毛立つ。
「はい、ですが……どうやら、当たりのようではありませんでした。匂いが似ていたのでもしやと思ったのですが」
残念そうに俯く。そんな様子に少し安心した。ただのおかしい人だろうか? こういう手合いは稀に見かける。
「そ、そうですか」
「でも、外れでもない……。貴方は夢を見ますか? 私は生まれてこの方見たことがないのです。ですが、人に見せることは出来ます。望む夢、嫌う夢どんなものでも」
「……それは良いですね」
「どうですか? 今夜何か良い夢を見せましょうか?」
「いいえ、結構です。間に合ってますので」
「そうですか。残念です」
女は満足したのかトボトボと振り返って歩き始めた。
話したところ、変な女性という印象だったが、さすがにこんな時間に人通りの少ない道を歩かせるはどうかと思い声をかける。恐怖が治まったわけではない。
「大通りまで送りましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。お気遣いなく」
こちらを振り返り、笑顔でそう言ってまた歩き出した。
扉を閉める、すぐに屋敷に戻ろうと思ったが、もう一度道の先を覗いた。が、そこには先ほどの女性の姿はなかった。閉めるのにかけた時間は一分もかかっていないはずなのに。俺は、この暗闇のせいだろうと思い込むことにして帰った。
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