第112話 薔薇の夢
「聞いてくれよ、ソフィア先生が俺を虐めるんだよ」
「真剣に鍛えようとしてるからじゃないの」
こっちには目もくれずお嬢様は、勉強に取り掛かっていらっしゃる。特に質問もなく、静かに始まり静かに終わるはずの時間は俺が退屈なのでそうはならない。相手も別に嫌がっていないのかやめるようには言われない。
「勉強をそこまで頑張ってどうすんだ? お前王女なんだから別に必要ないように思えるが」
「そうね、普通なら国内の有力な貴族と結婚するか、他国の王子と結婚するものね」
「どっちも、当人の考えが関わらなさそうなのが大変そうだよな」
「結局、第二王子とか王女はパイプとして働くしかできないからね」
この国では王の後を継ぐのは王子と王女どちらが継ぐのか決まっていない。流石に、第一王子と第一王女が有力だが。歴史をさかのぼれば女性が王に付き女王となっているのも何代かあった。そもそも、この国では男女格差が少ない。そこは日本よりいい所だ。
「で、何で勉強するんだ? 王女やめるのか?」
「……それも考えないこともないんだけど。実際魔道施設とは結構いい繋がりがあるからそっちに移るのもありね」
ペンを顎に当てながら考えている。
「ソフィア先生を俺に付けられるぐらいだからな」
「あ、そうそう。ありがとうって言われてない気がする」
ローズはハッとした顔をしたかと思うと急に俺に近づいてそう言った。
「まあ、そうだな。ありがとうございます」
そうかそうかと嬉しそうに勉強に戻っていくお嬢様。
「って! そうじゃなくて。私は王様になるのよ」
「はいはい、頑張ってくださ…………い?」
「王様になるのよ!」
「いや、聞こえなかったわけじゃないです」
「だから勉強してるの」
「やめよう」
「は? 何で?」
「いや、こっちの路線結構多いから。おすすめしなよーってこと」
「路線? 何言ってるの? 向いていないと思うなら素直にそう言ってくれた方がいいんだけど。……燃やし甲斐があるから」
部屋が急に蒸し暑くなってくる。まるで目の前で業火が燃え盛っているかのような。
「そうじゃなくて、何かよくあるよねー的なことを言っただけ。悪くない。すっごい悪くない。めっちゃ良い! もう最高!!」
「え、ホント?」
「うん、ホント」
「そうよね。私そっちの才能あると昔から思ってたの」
このお嬢様、不機嫌になるとあたり一帯を焼土にしないと気が済まないのかよ。危うく俺の遺体が灰として残らない所だった。
「それに、この国の王様ってわけじゃないし」
「? どういうことだ。国を作るってことか? それとも他国の王に?」
「んーんと。立て直すって方が正しいわね。もうその国は四年前に亡んじゃった」
「四年前ってこの国の直ぐ近くの小国だったところか? 確かブーケ王国」
俺はローズの教材を覗いていた時に見かけたことを思い出していた。この国は確か一夜にして亡んだとかなんだとか。原因は砂漠の国、フレフ帝国の侵攻。そして、そこから戦争が始まって二年で終結した。こちらの国の勝利で相手は多額の報償で和平を結んだとか。その和平も帝国に今の王がついてから怪しくなってしまったのだが……。
「違うブーケ公国よ。……この国の貴族が納めていた国だったの」
「そうなんだ。そこを立て直したいってことは何か思い入れがあるのか?」
「まあ……ね」
ローズは口を濁す。俺はその続きを聞かない。そうするべきだと思った。いつかアイツが自分から話そうと思うまで。
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