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無力の英雄  作者: 覡天狐
第二章 ~終夜の舞踏会~

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第110話 二時間目 杖

「何をぼーっとしている。集中しろ!」


 金糸のような髪を持つ教師は不真面目な生徒を折檻する。それも、物理的なものではなく魔法でだ。


「あババババ?」


 体を走る、雷に打たれたかのような激痛に目が覚める。いや、眠っていたわけではないのだが。意識が目の前の事から離れていたということなので似たようなものだ。


「どうした? 今日はやけに身が入っていないぞ」


 俺はコモン・バーベンのいつもの部屋? 草原? にいる。そして、昨日の続きをしていた。昨日は蝋燭の炎程の火を出すことができたのでそれの規模を掌程のものにしようとしていたところだ。


「すいません、考え事してました……これから……頑張るので、もうそれ、やめて下さい」


「よろしい、真剣にやるのならもちろん僕は手を出さないとも」


 腕を組んでうんうん首を振り満足気だ。


「……なんだよこのクソ教師。体罰反対」


「そんなに魔法を体で感じたいのか? 」


 ボソッと呟いた言葉がどうやら耳に届いてしまったようだ。耳良い人って多いよね。


「はい、マジすいません」


 その様子に満足したのかソフィア先生は少し離れた所に腰を下ろした。


「それで何があったんだ? 」


「いえ、もう終わったことなんですけど……人って変わってしまうものなんだなって思いまして。そういうの怖くないですか?」


 俺は昨日のミキさんの話を思い出していた。彼は変わってしまったのだと。そう言っていた。そして、彼がああなってしまった原因はあの時ローズに入っていた何かが関わっているのは間違いないだろう。あの時ウィルはそれを『禍つ神』と言っていた。それとは一体何なんだろう。敬虔な聖職者の考えを丸っきり変えてしまうほどの何かとは……。


「ああ、怖いな」


 先生の返答に意識が帰還する。危ないまた、人の話を聞かない症候群が出るところだった。


「ええ、本当に怖いんですか?! 先生には怖いものなんてないと思ってました」


「私にも怖いものはあるとも、変化とは得るものも失うものも多い、それはきっと良い事ばかりではないからな」


 金髪の魔女は何かを思い出したのか空を仰いでそう言った。



 そんな先生を横目に魔法に取り掛かる。実際大きくすると言っても簡単ではない。そもそも、魔力の注ぎ方すら覚束ない俺にとってはこんな火一つ出すだけで結構頑張っていたりする。


「先生ー、何かこう魔法の補助とかできる杖的な物ないんですか?」


「杖か、あるにはあるが……」


「じゃあ、それ下さい」


 手を出す。お駄賃をせがむ子供のように。


「馬鹿かお前は。杖は確かに消費魔力の軽減や発動時間の短縮、火力の増幅が出来るが、それは基本が身についてからだ」


「どうしてですか?」


「はあ、そんなことも分からないのか。戦いになったとき杖を持っていなかったらどうするんだ? 杖がないから戦えないなんて敵は聞いてくれないぞ。だからまずは杖を持たずにできるようにするんだ」


 心底呆れたように睨んでくる。


「ですよね」


 うん、近道とか楽な方法とかダメですよね。知ってました。

ここまで来ていただきありがとうございます。


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