第109話 図書室掃除!
ここまで来ていただきありがとうございます。
屋敷に戻り、食事も何事もなく済ます。ローズの様子もいつも通り元気そうだった。うるさいぐらいだ。
そして、俺はミキさんに声をかけた。この後の時間はミキさんと図書室の掃除の予定だ。
「待っていてくださったのですか?」
「はい、手伝うと言っても追い返されそうだったので」
ミキさんは今まで俺たちの食器を洗っていたのだ。ちなみに追い返されるというのは経験談だ。
「すいません」
少し申し訳なさそうに言う。
「責めているわけじゃないですよ。ありがたいですし、ではそろそろ行きましょう」
俺たちは世間話をしながら図書室に向かった。
その部屋からは古書の独特の匂いが香り、置かれている本たちはきちんと内容ごとに区分けされ、一糸乱れず立ち並び、あまり読まれないような本や本棚にも埃は見えない。奥にある本を読むスペースには庭が見える窓があり、そこはローズのお気に入りの場所だ。
図書室は俺がこの屋敷に来てからよくお世話になったところだ。特に暇つぶしに置いては本当に助かった。元から本は読む方だったが、この世界に来てからはそれ以上に読むようになった。最初のうちはこの国についてとか勉強チックな物を中心的に読んでいたのだが、頭が痛くなってきたので、物語や伝記を今はよく読んでいる。こっちの作家も、中々に面白いもので、つい数時間読んでしまうことも屡々あった。
ローズもよく、ここで勉強している姿を見かけている。大抵は夜だが、夜更かしなどは大丈夫なのだろうか。
それに、時たまちっこいメイドがこっそりここに入る姿を見かけることもある。誰にも見られないようにキョロキョロして入って行くのだが、多分気づいていない人はいないと思う。
俺たちは黙々と掃除をしていく。掃除はしている時何も考えずに無心にできるので結構好きだ。だけど、今回は聞きたいことがあった。
「ミキさん、カエル枢機卿について聞いていいですか?」
あの時の続きの事だ。
「カエル枢機卿ですか……」
いきなりの言葉に驚く様子もなく、ただ悲しそうな顔をした。
「私と彼が初めて会ったのははもう五十年も昔でしょうか。その時の彼は明るく、優しく、正義感に溢れ、敬虔な助祭でした。彼は私の事など覚えていなかったでしょうが。それが、どうしてあんなふうになってしまったのか……私には分かりません」
「昔の事を知っているんですか」
「話した言葉も、会った回数も片手で数えるほどでしたが……。そして、彼と再会したのは二年前です。ローズ様の治療のため、教会からやってきたのがカエル様でした。彼の活躍はもちろん耳にしていましたから、私はこの年にもなって恥ずかしいことですが、会うのが楽しみでした」
懐かしい思い出を語るミキさんは、楽しそうに、悲しそうに笑みを作っていた。そして、その笑みは静かに姿を消す。
「……ですが、彼の顔はもうあの頃のようなものとは違ってしまっていました。当時は、大人になり、社会の過酷さによってああなってしまったのかと思っていましたが、今思えばそもそもローズ様に会いに来たのは治療のためではなかったのだと思います」
「彼の目は、もう未来を見ていなかった。何か、別の物だけを見つめていた。正しさから離れた何かを」
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