表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴン娘の日常  作者: さえぐさ
6/10

第六話 兄の魔法講座と私


「……火は、こうやってつけるんだ。指に魔力を流して、指先から放出し、その魔力を火に変換する」


 説明してくれる兄の言葉に今度は私がぽかんとする番だった。

 肺に魔力を貯めて息を吹きつけるように火を出していた私に対し、兄は指先から魔力を放出して火を作ると言った。つまり、やり方が違うということ。

 私は頭を抱え、兄は顔を引きつらせている。


「火の作り方を教えてくれたのは父さんだよな?その時はなんて言ってたんだ?」

「………『体の中の魔力を火に変換して、ふっとすれば火は付くよ。火の大きさは魔力の量で調節できるから』って」


 何度も頭の中で反芻してきた言葉だ。すらすらと出てくる。


「それしか、言われてない?」

「……うん」


 兄が手で顔を覆い、天を仰いだ。小さく「父さん……」とつぶやいている。


 さっき見せてもらった火の出し方と、今の兄の反応を見れば父の説明が圧倒的に言葉が足らず、また誤解を招くようなものだったことがわかる。

 いや、確かに「ふっとすれば」とは言われたが「息を吹けば」とは言われていない。私が息から火を出すやり方が一番出しやすくて勝手に勘違いしたわけだけど、それを知りながら訂正しなかった父も父だ。


「あー……父さんへの文句は後で言うとして、今はこれからのことを考えよう。

 その様子だと魔法についてまともに説明されてないみたいだけど、学校の入学になぜ魔力コントロールが必要なのかは説明を受けたか?」


 兄にそう言われ、そういえばきちんとした説明はされていないことに思い当たる。

 なかなか火を出すことが出来なくて、火を出すことができるようになった後も近くの木を燃やしてしまったりしていたから、魔力コントロールが出来ないと火が出せなくて、出せても危ないからだと勝手に納得していた。


 兄の問いに首を横に振ると、兄はもう諦めたという顔で頷く。


「なら魔法についてざっくり説明するな。

 まず、魔力を利用する行為は大きく分けて二通りある。それが魔法と魔術だ。魔法は自分の体と魔力を使って行うやり方で、魔術は外因的な要素を使って行うやり方。

 ここまではいいか?」

「うん」


 魔法と魔術って別物だったんだ……ニュアンスが違うだけで同じものだと思ってた。


「魔法と呼ばれるものの中にも2種類のやり方がある。肉体に刻まれた魔術式を使い魔法を発動させるやり方と、魔力コントロールで構築した魔術式を使い魔法を発動させるやり方だ」

「まじゅつしき?」

「魔術の式と書いて魔術式。まぁ言いにくいから、みんな術式って呼んでる。魔力を魔法にするのに必要で、………あー、ちょっと待ってな」


 兄はそう言うと、木の枝で地面に何かを描き始めた。迷いなく線を引き、書き上げたのはシンプルな魔法陣のようなもの。


「これが術式。地面に書いたから外因的な要素に当てはまって魔術になるけど、可視化するとこんな感じ。もっとも簡単な火の魔術式だ」


 陣の中心に落ち葉を置き、手をかざすと葉はみるみるうちに燃え上がって灰になっていく。


「オレは今、自分で魔力を火に変換していない。あくまで魔力を地面の術式に込めただけ。

 術式には魔力を魔法の形に整える役割を担っているんだ。術式を消す、もしくは魔力の供給を止めると魔法も消える」


 兄の手が陣から離れると火はあっさりと消えてしまった。


「肉体に刻まれた術式は遺伝によって変わるから、種族や家庭で大きく変わる。例えば有翼種、羽根をもって産まれた種族は空を飛ぶ術式ももって生まれる。オレたち龍人族もだな。羽根だけ、魔法だけでも飛ぶことはできるけど、羽根も魔法も両方使った方が安定するし早く長く飛ぶことができる」

「さっき言ってた、息吹の魔法、というのは魔術式?」

「そう。龍人族がもつ術式を使った魔法だな。龍人族は肺や気管が強いから、肺で魔力を形成して放つ魔法“息吹”は、とても強力な魔法だ。

 正直、息吹の魔法であんな小さくて大人しい火の玉は初めて見たよ。逆にすごい」


 いや、そういうフォローはいらないです。


「話を元に戻すけど、なぜ学校の入学に魔力コントロールが必要なのか。

 魔法を扱える人のほとんどは火、水、風、土の4元素の最もシンプルな術式を持って生まれてくるんだ。そして龍人族は持って生まれてこない少数派」

「つまり、この魔法が使えないってことは……」

「龍人族であるとバレる要素になり得る、ってワケ。だから人間族のふりをするためにこの術式を持っているふりをしなくちゃいけない。

 魔法にも魔術にも術式は絶対に必要。でも肉体に刻まれていない術式、外因的な術式に頼ることもできない。ならどうするか?はいリア!」

「えっえっ?」


 まるで学校の先生みたいに急に指され、戸惑いながらも今までの兄の言葉を思い返してみる。

 魔法と魔術、魔法のやり方、魔力コントロール、術式は絶対に必要。


「…………魔力コントロールで構築した魔術式を使い魔法を発動させる?」

「そう!」


 先程言っていた兄の言葉をなぞると、褒めるように頭をかき回される。

 少し乱暴で、髪の毛をぐしゃぐしゃにされてしまった。


「魔力コントロールで術式を構築する!これがすっげー難しい。こういうのは自分の魔力を可視化できる妖精族とか天使族が得意なんだ。ぶっちゃけ龍人族の超苦手分野」

「ちょーにがて」

「魔力の繊細な扱いが要求されるからな。龍人族はもっとこう、力技とかゴリ押しとかが得意」


 あぁ、それはなんとなく想像できる。

 息吹とかいう魔法も、私が火が吹けるようななったばかりの頃、お試しぐらいの気持ちで軽く使ってみたら近くの木々が3,4本燃え上がってしまったことを思い出す。あの魔法を本気で攻撃手段として使ったらどんな被害が出るのだろうか。


「でも大丈夫だ!オレらがやろうとしているのは四重構造や五重構造の構築じゃない、ちょっと火を出すだけの簡単な魔法の構築だ。リアにも出来る!」

「う、うん」


 自分に言い聞かせるような言い方が若干気にはなるものの、今は兄さんに全力で付いていくしかない。

 というのも私が今まで行ってきた魔法の練習は自分の中にある術式を使った魔法の練習で、魔力コントロールで術式を構築する練習は全くできていないことになる。


 期限まであと9日。もう時間がない。




この世界の魔法についての説明回でした。

自分なりにかみ砕いたつもりですが、もし何かわからないところがあれば、ご指摘・質問等をしていただけると有難いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ