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ドラゴン娘の日常  作者: さえぐさ
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第五話 ロウソクの火と私


 今日も今日とて村の端に行き、魔力コントロールの練習をする。

 繰り返し火を出しては消し火を出しては消し、気が付けば私の周りには燃えカスになった木の枝が散乱していた。


 はぁ、と深くため息を吐く。

 何度やってもうまくいかないまま、今日も日が傾き始めた。


 込める魔力の量で火の大きさが変わることは分かっている。けど、巨大な火の玉ができるばかりでロウソクの火には程遠い。

 もう魔力は絞れるだけ絞った。これ以上この火を小さくする方法がわからない。


 こうなってくると父さんたちへの疑念も高まってくる。

 本当にロウソクに灯すような小さな火がつくのだろうか、このやり方は間違っていないだろうか、と。

 父さんに魔法の仕方を教えてもらった時も、「体の中の魔力を火に変換して、ふっとすれば火は付くよ。火の大きさは魔力の量で調節できるから!」としか教えてもらえなかった。

 他の人に聞いても曖昧に返されるばかりで頼りにできないし、母さんはドが付くほどの箱入り娘なためこの魔力コントロールが出来ず、2人揃って頭を捻ることになる。


 魔法の練習自体、9歳になるまでは禁止され、8月に誕生日を迎えた後も雑な説明しかしてもらえず、1番初めの“魔力を火に変換する”というところから躓き、火を出せるようになるまでに4ヵ月半もかかってしまった。

 その後、2週間ほど火の調節に時間を費やしているものの、壁にぶつかって現在に至る。


 うんうんと唸りながら頭を抱えていると、「よっ」と後ろから声をかけられる。


「お困りの様子だな、リア」


 振り返ると、そこには5つ年上の兄、ライ兄さんが立っていた。

 今は学校の寮に入っているためなかなか帰ってくることができない。ここ2,3年は長期休暇に入っても課題などを理由に帰ってこなかったため久しぶりの再会となる。


「兄さん、なんでいるの?」

「おいおい、久しぶりのにーちゃんだぞ。もっと嬉しがれよ~」

「だって年末にも帰ってこなかったのに」

「あ~…ははは、課題がさ、立て込んでててよぉ」


 ふいっと逸らされた視線が嘘だと語っている。きっと友達と遊び歩いていたのだろう。

 年末年始は長期休暇が毎年あるが、まともに帰ってきたのは1,2年のことで、今では8月の長期休みも帰ってこない。


 この世界でも1日24時間、30日もしくは31日で1ヶ月、365日で1年となる。(12月が28日間)

 四季があり、1月2月と数えるのは日本と同じで馴染み深いが、月と季節は少しズレていて、1~3月が春、4~6月が夏、7~9月が秋、10~12月が冬となる。体感では2か月ずつズレてるイメージだ。

 学年の繰り上がりは4月なため、入学式は夏のイベントとして知られている。


 今日は1月13日。

 確か、休みの期間は日本とあまり変わらなかったはずだから、もうすでに授業は始まっているはずだ。


「長い休みはもう終わったけど、毎週2日間は休みなんだよ。だから明日の朝には出る必要があるけどな」

「じゃあなんで帰ってきなの?」


 この村から兄が通う学校までかなり距離がある。もっといえば、この村は山頂付近にあり、山の上り下りだけでも相当な時間がかかるはず。

 貴重な休みを使って一晩の里帰りに家族の顔を見に来ただけではないだろうと理由を聞くと、兄はからからと笑った。


「母さんからさ、手紙をもらったんだ。お前が魔法のことで悩んであるみたいだから何かアドバイスしてやってくれって」

「え、母さんが?」

「手紙じゃ何か一言でもって感じだったけど、リアが何に悩んでいるのかよくわからなかったし、文を考えて手紙を書くのも苦手だからさ、とりあえず帰ってきた!」

「そうだったんだ……、ありがとう兄さん」

「いいって。4月からは一緒に学校行きてーもんなっ」


 にっと笑う兄に後光が差して見える。

 父さんもマリ伯母さんもそうだけど、この村の人は全体的に私が学校に行くことに反対気味だから、こんな風に手を貸してくれる人は貴重だ。

 後で母さんにもお礼を言わないといけない。


「リアが悩んでいるのってちっこい火を付ける魔力コントロールのアレだよな。とりあえずどうやっているか見せてくれるか?」

「うん、わかった」


 兄の前で散々繰り返したように、枝に向かって吐息に乗せるように火を放つ。

 ぼうと燃え、私の頭ぐらいの火の玉が出来上がった。こうやって枝で持っていると真っ赤な綿あめみたいだ。

 ようやく安定して大人しい火の玉を出せるようになったが、失敗は失敗。


 兄の顔を窺うと、ぽかんと呆けた顔をしていた。


「えっと………兄さん?」

「お前まさか、息吹の魔法で火を付けようとしてたのか?!」

「ぶれす……?」


 驚く兄の口から聞きなれない言葉が飛び出る。

 息吹の魔法。確かに私は息を吹きかけるように火を出しているが、何をそんなに驚いているのか分からない。


 兄はあーだかうーだか唸った後、私の目の前に人差し指を立てて、その指先にしゅぽっと可愛らしい音を立てて小さな火を灯して見せた。

 正しく、ロウソクが灯すような火である。なんだそれは。


「……火は、こうやってつけるんだ。指に魔力を流して、指先から放出し、その魔力を火に変換する」


 なんだそれは。



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