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ドラゴン娘の日常  作者: さえぐさ
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第三話 家族会議と私


「………でも、こんなに少食なんじゃ、これからが心配だな」


 夕飯を終えてみんなで一服しているとき、父さんがぽつりとそんなことを言う。

 それに対し、大きく頷いたのはマリ伯母さんだった。


「そうねぇ。食べる量が少ないから体は小さいし、力もでないでしょう」


 あ、この流れは。

 神妙な顔つきで頷きあい父さんとマリ伯母さん。

 父さんは真剣な、けれど座りが悪そうな様子で、私の顔を窺っている。


「やっぱり、……やめにしないか、学校に行くのは」


 学校。ヒノクニ魔法魔術専門学校のことだ。

 私たちが住むここ、燈の国で最も大きな学校で、燈の国の王族たちが住むお城のすぐ近くにあるという。

 安全性や警備の観点、学べる専門性から龍人族はこの学校に通うことを国から推奨されている。

 一番上の兄は留学していて海外にいっているが、2番目の兄はこの学校を卒業し、3番目の兄は在学中である。


 私も行くとしたらこの学校になるわけだが、推奨というだけで絶対ではないし、龍人族には義務教育というものがないため、村の人たちからは村から出ることに対し反対意見が多い。


 それに、私が女だからより反対されている、というのもある。

 龍人族の女児の出生率はとても低い。全体の1割~2割ほどしかなく、それはもう居るだけで有難がられるレベルで大事に大事にされる。

 子を産むのが女の仕事、ほか全ては男の仕事。なんて云われるほどに。


「あなた、その話は散々してきたでしょう?本人が望むなら学校に行かせてあげるって決めたじゃない」


 父やマリ伯母さんが反対意見を持つのに対し、母さんはこの村では珍しく賛同する側の立場を取っていた。

 母さんの気迫に圧されて意見を引きそうにな父さんを、マリ伯母さんがキッと睨みつける。父さんは蛇に睨まれたカエルのごとく、しおしおと小さくなってしまった。

 女性ばかりの我が食卓会議において父の立場は低く、肩身が狭そうだ。

 村長をしているときのような威厳は全く感じられず、しゅんとしてしまった父を可哀そうに思いはするが対立意見なため助けてはあげげられない。ごめん父さん。でもそのまま大人しくしてて。


「でも、外は本当に危ないのよ。私たち龍人族の肉体は貴重な素材として高値が付く。もし周りに龍人族だと知れてしまったら攫われてしまうかもしれないの」

「だから王都まで行くのでしょう?子供たちを守れる人材がいて、守るための設備や福祉がある。国が、王がこの子を守ってくれます」

「確かにこの国の王族たちは龍人族に対し友好的よ。何かと便宜を図ってくれてることも知ってる。他の国に比べたら安全かもしれないわ。けど、あくまで比べたらの話。この国にだって人身売買や龍狩りをするような野蛮人はいるわ。それに、もし他国に連れていかれたら、見つけることも助けることもできないかもしれないのよ」


 国政で龍人族が守ってもらえるようになったのはここ200年ぐらいのことで、大人たちはそれ以前の時代を知っている。

 女性や子供がろくに外を出歩けない日々があったこと、龍人族を人ではなく魔術の素材としてしか見ていないような人たちがいたこと。そういった話は昔からよく聞かされていた。

 父さんもマリ伯母さんも、いまだ他種族を心の底から信じることができないでいる。


 今では国や王様たちのおかげで平穏な毎日を過ごすことができているけど、それでも多くの大人たちはこの山に引きこもり、他種族とは必要最低限の接触しかしない。

 都会に出ているのは若い世代ばかりで、学校に行ける制度も出来た当初は揉めに揉めたらしい。


「外の世界が危険でいっぱいなのは重々承知しています。でも、だからこそ自分の身を守るために必要な手段や知識を自分自身が身に着ける必要があると考えます。学ぶ機会を閉ざしていては、いつまで経っても何が危険なのかの判断ができない大人になってしまいます」

「………学びたいと、勉強がしたいという志は立派だと思うわ。なら、せめて紫の国の学校に行くのはどうかしら?紫の国なら龍人族しか入国することはできないし、この国の学校よりも安心して任せられるわ」

「それは………」


 紫の国。燈の国の同盟国であり、龍人族のみが所属する島国だ。

 紫の国では龍人族以外の他種族は入国さえ許されておらず、外交もあまりしていない。同盟を結んでいるのも燈の国だけなんだとか。


 確かに紫の国なら安全だと思う。

 私が純な気持ちで勉学を望み、安全性などを考慮すれば紫の国に留学するのが最もベストな答えだ。


 私が、純な気持ちで、勉学を、望んでいるのなら、である。


 残念ながらそんな殊勝な心掛けで学校に行くことを望んでいるわけではない。

 こんな、いつもより白熱した真面目な議論を交わす母さんやマリ伯母さんにはとてもじゃないが言えない、そんな理由。


 ……肉以外のものが食べたい、だなんて。


 本当に、本当に申し訳なく思うが、私にとっては切実な願いだった。

 そんな理由だから紫の国ではダメなわけで。龍人族しかいない紫の国では。

 けど、もちろんこんな理由を馬鹿正直に言うわけにもいかないため、必死に頭を動かす。


「……他の種族の人たちと、関りを持ちたいから、学校に行きたい、です。龍人族じゃない人がどんな生活をしているのか、何を食べて、何を考えて、何をして1日を過ごすのか、……他種族同士でどうすれば仲良くなれるのか、そういうことが知りたいんです」


 ギリ、嘘にはなっていない、と思う。広義的にはこんな感じなはず。

 適当に口から出た言葉だったが、なかなか様になっているように思う。

 それでも父さんたちは渋い顔をしたまま私を説得する言葉を探している。


 ………こうなれば、奥の手を出すしかない。


「でも、こういう勉強ができるのは今だけなんでしょ?

 私、……大人になったら紫の国にお嫁に行かなきゃいけないから」



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