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ドラゴン娘の日常  作者: さえぐさ
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第二話 家族団欒と私


 村の端で、適当に落ちていた枝を手に集中する。

 私の体の中をぐるぐると巡っている魔力を少し、ほんの少しを火に変換し、ふっと吹きかけるようにして枝に火を灯す。

 火はぼっと音を立てて大きく燃え上がり、一瞬で火柱が上がる。想定以上の火に慌てて枝から手を離すと雪の中に落ちて火は消し止められた。


 うん、失敗である。


 本当はロウソクに灯すような小さな火を付けたいのだ。

 けど何度やっても、どれだけ魔力を絞っても、ロウソクの火には程遠い火力が出てしまう。それでも今回はまだマシな方で、初めのうちは枝が爆発四散したり、近くに生えている木に燃え移ったりしたこともあった。


 はぁ、とため息をついて落とした枝を拾う。もう何度も繰り返し火を付けているから真っ黒になってボロだ。


 どうやら私には魔法の才能がてんでないらしい。

 けど、何としてでもあと10日、それまでにこの魔力コントロールを身につけなければならない。


 さてもう一度、と集中しようとした私のすぐ近くに一体のドラゴンが降り立つ。地面に足が付くとすっと姿を変え、人の形になる。近所に住むリコお姉さんだ。


「リアちゃん、今日も魔法の練習?えらいわねぇ」

「練習、しているんだけど、全然うまくいかなくて……」

「そうなの?でももう暗くなるから、続きは明日にした方がいいわよ?」

「………うん、そうする」


 空はまだまだ明るくもう少し練習していたい気持ちもあるが、そろそろ夕ご飯の時間だと母さんが呼びに来る頃合いなので素直に帰ることにする。


 リコお姉さんと別れ、家に帰ると母さんが夕飯の支度をしているところだった。


「ただいま」

「あ、おかえり、リア。そろそろ呼びに行こうかと思っていたところなの」

「なにか手伝うことある?」

「じゃあ、お皿とお箸、並べてくれる?」

「うん」


 並べる食器は4人分。父さん、母さん、私、それから父さんのお姉さんであるマリ伯母さんの分。

 マリ伯母さんの旦那さんや息子さんたちは働きに出てて、家に一人になるからご飯は一緒に取っている。

 それぞれのお皿とお箸。そして私の前にだけ塩とナイフを準備する。


「並べ終わったよ」

「じゃあお父さんとマリさんを呼んできてくれる?今日は集会所に詰めているみたい」

「はーい」


 集会所はこの村の中心にあり、役場のようなもの。

 父さんはこの村の村長で、マリ伯母さんはその補佐の仕事をしている。「ようは雑用係みたいなものさ」って父さんは笑っていたけど、トラブルの仲裁や災害時の対策を中心になって行ったりと、とても大変そうだ。

 今日も書類整理のために朝から集会所に詰めているみたいだ。


 集会所は岩肌がむき出しの崖だった場所にある。

 村の中でも最も古い建造物である集会所は歩いて辿り着くことはできない。龍人族は皆、飛ぶことができるから問題はないが、私は飛ぶのが苦手なため歩けるところまで歩いて近づき、そこから大声で父さんたちを呼ぶ。


「父さーん!マリ伯母さーん!ご飯だよー!」


 そうすると集会所から父さんがひょっこりと顔を出した。

 私が手を振ると笑いながら手を振り返してくれて、飛んで私のところまでやってきた。このぐらいの距離だとドラゴンになることも、翼を出す必要もない。

 すぐ後にマリ伯母さんも出てきて、3人並んで家へ帰る。


「今日は大きな熊が狩れたんだ。もう各家に分配されているだろうから、今晩は新鮮な肉が食べられるぞ」

「リアもいっぱい食べるのよ」

「………うん」


 この山に生息している熊は私が知っている熊よりも3倍ぐらい大きい。さらに父さんが大きいというならよっぽど大きかったようだ。

 父さんは身振り手振りで、その熊がどれだけ大きくて、どれだけ立派な肉が取れたかを話してくれるが、私はこれから出てくる肉の塊を想像してげんなりする。

 家につくと笑顔の母さんと、ごろごろとした肉の塊の山が私たちを出迎えた。


「おお!とってもうまそうだ、さっそくいただこう!」


 冷めないうちにと言われるがまま、4人で机を囲み、手を合わせてから食べ始める。

 私は肉の山の中から小さいものを選び、さらにそれを半分に切って片方を母さんの皿に押しやった。


「あっ、こら!リアったら、せっかく切り分けておいたんだから1つは食べなさい!」


 そう言って押しやった分のお肉を私のお皿に戻そうとしてくる母の手を避け、全力でお皿をガードする。

 あと、全く小さくない。成人男性の拳ほどある。

 母さんはため息をつき、お皿を机に戻した。諦めてくれたらしい。


「リアは相変わらず少食だな、そんなんじゃ大きくなれないぞ」


 父さんの言葉に呆れと心配がにじんでいる。申し訳ないとは思うが、食べれないものは食べれないのだ。

 私は自分のお皿に残ったお肉に塩を振り、小さく切り分けてから口に運ぶ。


挿絵(By みてみん)


 ものっすごく、かたい。

 筋張ってるし、臭みはあるし、かちかちのぱさぱさのぼそぼそ。


 この山に生息している動物は熊以外に、兎や鹿、猪、ワニなど様々な動物がいる。

 が、どの動物もやたら巨大で、凶暴で、筋肉質だ。


 肉というのは、動きの遅い動物の方が美味しくて、動きが速くて筋肉がいっぱいある動物の方が不味く、大きい動物ほど大味になるのだとか。というのを昔テレビで聞いた気がする。

 そんな雑学を私は今、身をもって体感している。


 ナイフでゴリゴリと削ぐようにして肉を小さくし、それを歯ですり潰して柔らかくして、飲み込む。

 しばらくすると飲み込む力が弱まるため、水をもらって流し込むことになる。

 でも、こうしないと食べられないほど硬いのだ。


 それを大人たちはまるで柔らかいハンバーグを食べるみたいにパクパクと食べ進めていく。どんなあごの力をしているのか。

 いや、この場合だと私のあごが弱すぎるのか?

 私が使っているナイフだって、本来はもっと小さい子、幼児のための食器だ。それを私は9歳になっても手放せないでいる。


 龍人族は肉が主食。そして食にこだわりがない。…………味覚オンチなレベルで。

 私は塩をふってお肉を食べているが、他の人は何も味付けせずに食べている。龍人族にとって肉は肉というだけで美味しく感じられるのかもしれない。私には理解できないが。


 机の中心にあった肉の山がなくなるころに私も食べ終わる。

 お腹がいっぱいになったというより、お肉を歯ですり潰して水で飲みこむという作業に疲れた、という感じ。

 もう食べれないというよりもう食べたくないという感じだ。


 これが毎食のこととなる。私はげんなりしていた。



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