意思のない案山子
私はある日、不格好な案山子と出会いました。
その案山子は道端に放置されており、守るものすら持ちません。
強い日差しを浴び、ボロボロになり、むしろ往来の邪魔にすらなっていたのです。
私は案山子に問い掛けます。
あなたの守るべきものは此処におられますかと
案山子は答えません。
何も変わらず、其処に佇んでおられます。
私は重ねて問い掛けます。
あなたの存在意義は失われたのです。
あなたの居場所はもう此処にはないのですよと。
案山子はそれでも表情を崩さず、笑うのです。
そもそも生み出された時点で彼のものに笑う以外の権利が与えられていないのです。
私には、それが我慢ならなかったのです。
これは間違いなく私のエゴで、その他誰もが共感できる思いではない。
ただ、私はその在り方を悲しいと思ってしまったのです。
それでも案山子は笑います。
自分勝手に感情を発露し、自分勝手に嘆く私をみて笑います。
私は呆気にとられました。正気に戻ったともいえましょう。
取り乱した姿を見せ、失礼しました。
私は誰とあなたを重ねていたのでしょうかと。
道端に放置されたとて、その姿を見ることが出来て本当に良かった。
足取りは軽く、それでいて重たいものもあります。
旅路の行く末を背に、私は歩みを続けます。