雨を乞わない傘
ある日、私は不器用な傘に出会いました
その傘は雨を嫌い、濡れることを嫌っておられます
さて、果たして傘が雨を嫌うというのはどういう了見なのでしょうか
ましてや濡れることが嫌いとなりますと、そもそもの存在意義にも関わります
貴方様は、いったい何を考えておられるのでしょうか
いったい何様のつもりなのでしょう
不躾ながらも、私の口からはそんな言葉が漏れました
しかし、傘は黙して答えません
これが答えですと言わんばかりに、空を見つめておられます
それならばと、私は重ねて問い掛けます
貴方様には何が見えておられるのですか
それとも何かを目指しておられるのでしょうかと
すると、傘は億劫ながらも口を開きました
私が……私が必要になったのならば、それは雨の日です
しかし、しかしですよ、私は雨から完全に主様を守ることは出来ないのです
そんな私を、誰が必要とするでしょうか
雨から守るとは口ばかりの、半端物なのですと
雨が降らねば、主様は濡れますまい
だから、私は雨が嫌いですし、濡れることを嫌っておるのですと
ああ、なるほどと……私は納得することが出来ませんでした
他人の気持ちを推し量ろうとするほど愚かな行為はありませんが、
私には、どうしても言わずにいられなかったのです
それでは、貴方が救われない
その言葉を口にした途端、ある少女の姿を思い出しました
傘はそれ以上、黙して語りません
ただ静かに、その場に佇むのみだったのです