閑談1
ある日、私が目を覚ますと少女は身支度をしておりました
いそいそと私の鞄に物を詰め込み、今にも出て行かんばかりの様相を見せておられます
普段からあまり出歩かないタイプ故、私は少し気にかかり、問い掛けました
何か火急の要件でも出来たのでしょうか
必要ならば私も力になりますよと
しかし、少女はまるで可笑しな物を見たかのように笑います
いいえ、別に私は旅支度をしている訳じゃないわ
これは私にとって必要な儀式みたいな物なのと
私には少女が何を意図しているのか、皆目検討もつきません
ただ、少女がそう言うからには、それで良いのかなと、気持ちを切り替えました
すると、少女はため息をつきます
貴方の本質は何も変わらないのね
結局はそう言う風に、他人に踏み込みもせず、気に掛けたフリで終わらせてしまう
まあ、それも時間をかけて直すしかないのかしらと
呆れながらではありましたものの、それでも私にはその姿が何故か幸せそうにうつりました
本当に何故なのでしょうね
私には、それこそ皆目検討もつきません
ただ、少女が何かしらの幸せを感じていたのなら、それで良いかと再び目を閉じたのです
琥珀の涙はもう流れ尽きたのです
少女が幸せに笑い、私は新たな自分を探すことが出来ました
そう、だからきっと、このまま日々が流れ、いずれは死が二人を分つのでしょう
それで良い
それで良かった筈なのです
そうして、どれほどの時を過ごしたのでしょうか
ふと気付けば、私の旅道具は全て失われておりました
捨てた覚えもなければ、寄贈した記憶も御座いません
旅道具さえなければ、人は旅には出れません
そう思い込んでしまったのは誰だったのでしょうか
私はそっと扉を開け、まだ朝日も登らぬ街を背にします
その発端が何であったのか、今では語る言葉を持ちません
されど、私は再び旅に出たのです
何も持たず、何処に行くかも決めぬまま、私は旅立ったのです