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天のシャワーが窓を叩く。
それも生半可じゃない。ホースでばらまくみたいな、いかにも撮影でございって感じのわざとらしい豪雨だ。
でもって、ここは、クソボロ木造建築アパート。
「んわー! あまもりー!」
と、なるのは必然ってわけね。
缶詰めの空き缶、いくらあっても足りないよ~!
「ほい! ほいせ! あっ次はこっちか! ひ~ん!」
滴り落ちる水滴の着弾予測地点に、私は大慌てで受け皿を配置してゆく。移動魔法だって、惜しみなく使う!
えっ? 結界魔法はどうしたって?
あれは変身しないと使えない上に、燃費が悪いのよ!
「そあらくん、もういいぞ。屋根は補強してきた」
もはやお馴染みパンイチスタイルにて、びしょ濡れのセクスィ~細マッチョ上半身をこれでもかと見せつけるコウシロウが、ドアを開けて入ってくる。工具セットを降ろして、ぞうきんで体を拭きながら、ため息ひとつ。
「ちょっ! あんた、カッパ着てかなかったの?」
「雨に打たれたい気分だったんでな」
「風邪ひいちゃうでしょうよ! ばぁかぁ!」
「俺はサイボーグだ。こういう時こそ、役に立つ」
しれっと言うけど、いつもの真顔が暗く沈んでいる。
「やけに時間かかるなと思ったら、お隣さんのとこまで補強してきたわね。お人好しバカ!」
もう、やだ。さっきの事が原因で、彼が落ち込んでるってわかってるのに、なんで憎まれ口しか吐けないの?
「そうだな俺はバカだ」
泣きそうな目で笑わないでよ、コウシロウ。
バカは私の方なのに!
「いかん。問題は飯だった。近所のスーパーはあらかた怪人にやられてるし、遠出して買いに行ってもいいが」
「ダメ! 行かないで! ゴハンなんていいよ!」
腰にしがみついて引き留める。今の彼を独りにして、また敵が来たらどうする? きっと相手がどんな奴でもがむしゃらに戦うに違いない。そして、心の隙がもとで油断して深手を負いでもしたら。後は想像したくない。
「食わんわけにもいかないだろ」
「私が独りのとこに強敵が襲ってきたら責任とれる?」
まただ。
もっと言い方あるでしょうに。
「すまない。そこまで考えなかった」
あんたも謝るとこじゃないってば。
怒ってよ。言い返してよ。
私達パートナーじゃなかったの? むしゃくしゃして苦しいなら、気ィ使わないでぶつけてよ。
あなたが悲しいと、私も悲しいよ。
「致し方ない。こうなれば奥の手だ」
コウシロウが段ボールから取り出したのは、
「こっ、これは!」
まさかのカップラーメン!
「こんな高価な代物を! てか、買い置きしてたの? いざという時のためにとっておくべきじゃあ」
「今がいざという時だ」
うろたえる私を説き伏せ、コウシロウは湯を沸かす。仰向けに寝て、へその上にやかんを置き、沸かすのだ。
「ムネノエンジン省エネ出力!」
サイボーグの肉体が高温を発した。
こうやってアパートの光熱費を浮かせるらしい。
「準備完了だ。よし行くぞ、そあらくん」
「何この緊張感? 震えが止まらないわ、コウシロウ」
湯を注いで、躍りながら待つこと三分。
「ああ、なんと神々しい。簡単に出来上がる文明の宝」
「かやくに幸あれ、粉末スープに幸あれ。救いたまえ」
私達は感動の涙と共に、祈りを捧げた。
「「いただきつかまつる」」
合掌。ラーメン。
◇ ◇ ◇
外の雨音はまだ止まない。
いつも通り、仕切り代わりのカーテンを引き、布団を敷く。これもいつも通りで、私は日記をつけ終えてから床につく。コウシロウは先に横になっているんだけど、寝るのは大抵、私の方が遥かに早い。なんでなのかな?
時おり、苦しげな呻き声がカーテン越しに聞こえた。
戦いの疲労?
傷が痛むの?
肩凝りで寝苦しいの?
理由はわからない。聞いても、教えてくれないから。
思えば、私は彼を知らなさすぎる。
長い付き合いで、知った気になってるだけ。
当然よね。私だって、昔の事とか話せてないし。
アパート脇の道路を通過してゆく自動車のライトが、窓から射し込み、男のシルエットを浮かび上がらせる。
「がっ、ぐっう……」
いびきじゃない。うなされているんだ。
同居し始めて間もない頃はこういう声が聞こえても、うるさいなぁってウザがってたっけ。でも、今は違う。
ほっとけないよ。
「コウシロウどうしたの?」
邪魔なカーテンをひっぺがし、私は向こう側に行く。布団を乱して、汗まみれで、もがくコウシロウがいた。
どんな夢に苦しんでるの?
「もう起きて。私はここにいるよ!」
いつか私がしてもらったように、悪夢から助け出して抱き締めてあげたい。大丈夫だよって言ってあげたい。
少し間があり、彼は薄く目を開けて、私の手を掴む。
「そあら、抱かせてくれ……」
はい?




