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「こらっ!」
「またぶった! 何もしてないのに、ひ~ん」
「脳内でディスられたような気がしたのでな」
悪びれる様子もなく頭を掻いてフケ飛ばしてる。
あぁっ、くっせー足のウラでウチのお気にの、よもぎもちクッション踏んづけてるし! つかさ、
「なにナチュラルに私の寝床に押し入ってきてんの!」
この激ボロでダサいアパートは四畳半一間しかなく、乙女のプライベート空間を守るためにはカーテンつけて区切るしかない。にもかかわらず、こいつというこいつはぁ、なに食わぬ顔で禁忌を犯してくれやがってぇ~!
「いや、アラームがいつまでもうるさいので仕方なく」
「もういやぁ出てってよぉ! このどちゃくそヘンタイ野郎ぉ、パジャマみないでトランクスみせないでぇ!」
そこらのものを手当たり次第つかんでは投げつける。まくら、ふとん、ぬいぐるみ、掃除機、TV、冷蔵庫。あらゆるものが部屋を飛び交い、とっ散らかってゆく。
「落ち着いてくれ、そあらくん! 出ていけったって、ここは俺達の共有の住みかではないか!」
舞い上がる埃の向こうから制止の声が聞こえるけど、それは逆効果の台詞だ。
「それ言うんならルールは守れ、アホバカヒーロー!」
最初は仕方ないと思ってたけどもう限界。なんで私がこんなのとルームシェアしなきゃいけないのよぉ~っ!
私がようやく落ち着いたのは、数分後の事。
「そろそろ機嫌をなおしてくれないだろうか。さっきは悪かった。とても反省している」
白地に筆文字フォントで『スマン』とプリントされたTシャツを着て、コウシロウは私の前に正座している。その言葉に嘘はないのだろう。なんせ生真面目な奴だ。でもね、乙女の怒りはそう簡単に鎮まらないんだから!
そっぽ向いて競馬新聞読んでやろ。
「子供が読むものじゃないだろそれは。あと、あぐらをかくんじゃない。女の子だろ!」
取り上げられた。すねてやるー!
「え~ん返してよぉ~! そのたいど、さてはやっぱり反省してないのね~!? うそつき~!」
床に寝転んで足をドタバタさせてたら、コウシロウはため息混じりに、やれやれといった顔で言う。
「じゃあ、お詫びに朝飯は俺が作る」
「えっホント? やったぁー!」
思わずバンザイしちゃう。武骨なナリしてるわりに、料理だけはものすんごい上手なのよねコイツ!
ちなみに私はというと聞かないで。
「ただし食うのはゴミ捨ててからだ」
すっかり忘れてましたがな。急がなきゃ。この区画はなぜか収集車くるのメチャ早いの。
じゃあ外出の準備しますか。まずは流し台に立って顔洗ってー、まつげ整えてー、クシ通して髪型キメたら。
「おっそーい早く行けー! しかもそこに居られたら、調理ができんだろう!」
ヒラヒラのエプロン姿でダイコン片手にコウシロウが怒るから、仕方なくジャージ羽織って部屋を飛び出す。