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それから二人でお喋りをした。
めーちゃんはバツイチのアラサーだそうだ。
メスなんたらだと響きがアレなんで、めーちゃんって呼ぶ事にする。
最初こそ私のワガママに渋々付き合う感じだったが、話すうち、徐々に打ち解けてくれた。
「なるほどね。アタイが手を出すまでもなく、お前らは勝手に解散しかけてるのか」
「そうなの。しかも完全に私の過失」
「なんてこったい。こうなりゃ何がなんでも仲直りしてくれなきゃ困る。その上でアタイがキッチリ仲を裂いてやってこそ、別れさせ屋の面目が保たれるってもんさ」
なんだかんだ理由をつけて相談に乗ってくれている。もはや単なる世話焼きのお姉さんだ。
「プロ意識ぱないね。めーちゃんって、正社員?」
「メスカッターとお呼び。いちお十五年目だけど」
「超ベテランじゃん! お仕事どう? 楽しい?」
「あァ楽しいね。ヒーロー対策で二十四時間制導入するようなとこって言えば、わかるだろ」
クロウザーって黒いのね。さすが悪の組織。
「うちら外回りはまだいい、死ねば解放されるからね。栄光あれ~とかって叫んで爆発しとけば済む話。事務方なんか深刻よ、自殺願望通り越して全員悟り開いてる」
ヘビーだ。話題変えとこ。
「再婚とか考えないの? めーちゃん綺麗だし、引く手あまたでしょ」
「引いてくれるオトコいると思う? この手だよ、逆にみんな引いてくわ……ってお前、話をそらしてないか」
バレてら。白々とした視線が痛い。
「向き合うのは怖いだろうけど、放置すりゃお互い何も言えなくなって、どんどん冷めてくよ。自分が悪いってわかるなら、ちゃんと口に出して謝る。で、信頼を取り戻せるよう努力する。通すべきスジ通すのが人の道だ」
「でも、謝っても、きっと許してもらえないよ。完全に失望されちゃっただろうし」
「ばか、話してないなら許す許さない以前の問題だろ。相手の本当の気持ちも、わかんないままなんだからさ。大地コウシロウはクソ真面目な奴だ。どっかでまだ期待してるのかもしれない。それさえ踏みにじるのかい?」
膝の上に置いた拳が震える。めーちゃんの言うとおりだよ。すっかり諦めて思考が逃げに走ってた。
「あんたってほんとクズだねェ」
めーちゃんはここで、どこか嬉しそうに目を細めた。
「アホ旦那を思い出すよ。ワガママで態度デカいくせに甘え根性だけは一人前で、泣けば許されると思ってて」
笑顔で語ってるだけに刺さるなぁとか思ってたら、かすかな音が耳に届く。ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ、って。
「さんざん振り回したあげく借金残して逃げくさった最低のクズ男さ。でも、アタイもアタイだよ。途中で縁切っちゃえばいいのに、アイツがやけに可愛くて、ちょうど今のあんたみたいに放っとけなくてね……」
発生源は眼前の、めーちゃんだ。
「なんか鳴ってるけど?」
「自爆装置だね。サボってるのが組織にバレた。
アタイは今から消されるんだよ」
時間が真っ白く染まる。
「知らなかった? ほら怪人っていつもドカンて吹っ飛ぶだろ。あれは、機密保持のためについてるのさ」
天気の話でもするような、あっさりした答え。
そんな、めーちゃん、そんなのって。
私のせいで、私が、引き留めたりしたせいで。
「そうさ貴様のせいだ!」
私の肩が跳ねた。めーちゃんは犬歯を剥き出して、わざとらしいほどに張り上げた声で続ける。
「おのれェはかったな。任務も果たせず無駄死にするくらいなら、貴様を道連れにしてくれる!」
メスとカッターの一閃が交差して走り、ちゃぶ台と湯飲みは真っ二つにされてしまう。
私は恐怖で足がもつれ、スッ転び、仰向けとなる。次の瞬間、お腹に、メスが突きおろされた。
痛い。強く『圧迫』されて、苦しい。
「ふはは動けまい! いいか、このまま爆発するぞ。我が心臓を今すぐ破壊しないと、阻止できないぞ!」
めーちゃんは確かにそう叫んだ。
いつの間にか開け放たれていた玄関ドアの向こうに立ち尽くす、『彼』に向かってだ。
「わかったかダイボーガー!」
「おおおおおおおおっっ!!」
漆黒と深紅の姿が一心不乱に疾駆して、めーちゃんとの距離を限りなくゼロまで近づける。
技名も叫ばず、大上段から鋼の手刀を振りおろす。
カッターがそれとかち合って、折れた。当然だ、文房具の折れ刃式カッターはそういうふうにできてる。
「めーちゃ」
「メスカッターと、お呼び……」
よかったねぇ。
だいじにされているじゃないか。
嫌われてなんか、いないじゃないか。
だからアンタも、大切にしておやり。
左肩から反対側の胴にかけて切断された私の友達は、最後に、にっこりと笑った。
後でコウシロウに聞いたけど、メスというものは、刀身の部分が柄から外れるようになっているらしい。
このことを、私は一生、忘れない。
つづく




