アダムとイヴは初対面!?
少々設定に振り回された自覚はありますが、何とかまとめられました。
僕はもうすぐ死ぬ。
今僕は、病院の一室でいろんな機械や点滴に囲まれ、寝たきりの状態だ。
幼い頃から身体が弱く、いろんな病気を患ってきたが、最近ついに致命的なヤツに当たったらしい。病名は聞いたその場で忘れた。
苦痛にのたうつ系じゃなかったのがせめてもの救いか。
(ごめんなさい、お父さん、お母さん。こんな息子で、こんな体に生まれて……)
自分は覚悟ができていたが、やはり両親への申し訳なさは拭えない。
そしてしばしの後……
僕は、この世界に別れを告げた。
「……さい。いい加減起きて下さ~い!」
聞き慣れない声がする。
目を開くと、そこには変な格好をした怪しい人が。
……あれ?
「ようやく起きてくれましたか。待ちくたびれましたよ~」
「あなたは?」
「私は神様です。えっへん!」
信憑性がストップ安。僕はまともな会話を諦めた。
「そうですか。ではまず、僕は生きているんですか?」
「いいえ、死んでますよ。なので、あなたには選んでもらいます」
「選ぶ?」
「はい! このままおとなしく成仏するか、別の世界で新しい人生を送るか」
「別の世界で……新しい人生?」
胡散臭い事この上無いが、現状この人しか手掛かりが無いので、しばらく付き合わざるを得ない。
「実は私、神様なりたてなんですよ。それで、神様たる者世界の一つも管理しないで何とする! と言うわけで、新しく世界を作ったのです」
神様にとって世界ってDIYか何かなのだろうか?
「でも、ちっとも発展しないんですよねぇ。文明どころか、動物すら大して増えなくて」
「その世界と僕とに何の関係が?」
「話は最後まで聞いて下さい。そこで、先輩の神様に相談したら『知的生命体、特に人間を放り込むと発展が進むよ』って教えてくれました」
「で、僕をその世界に放り込もうと」
「理解が早くて助かります。でも、無理強いはいけませんから、あなた自身に選んでもらう事にしました」
「事情はわかりました。しかし、仮にその世界に行ったとして、僕の体ではまたすぐ死ぬのでは?」
「その点は大丈夫です。自分が作った世界の中だと、それなりの無茶も通せるんです。いわゆる神様ぱぅわぁ! ってやつですね」
この人無駄にテンションが高くて、会話してるだけで疲れてくる。
「具体的には、死んだタイミングの身体の生命体としての脆弱性を修正、強化した状態で私の世界に送ります」
「最後に一つだけ。どうして僕だったんですか? 同じタイミングで死んだ人間なんて、他にもいたでしょうに」
「それは、あなたの死体が一番原型を留めていたからです。元ある物を強化するのは簡単ですが、形を再構築するのはぶっちゃけ面倒臭いんです」
ランダムより質が悪い。
「じゃあ、そろそろ決まりましたか? 生きるか休むか」
「……新しい世界に、僕を連れて行って下さい」
実は事情を理解した時点で決めていたので、それを伝えるだけだった。
「よくぞ決断した! エラい! それじゃあ、第二の人生(物理)を思いっきり楽しんでくださいね! でも、なぁんか忘れてるような……」
次の瞬間、僕の意識が急速に途切れ、目の前が真っ暗になる。
最後の言葉はちょっと聞き捨てならなかったが、正直この自称神様とこれ以上会話せずに済む事に安堵していた。
目が覚めると、そこは草原のど真ん中だった。
何となくジャングルのようなイメージをしていたが、どちらかと言えばサバンナに近く、環境としてはすこぶる快適。
そして何より体が軽い! いつも感じていただるさも無い! ちょっとだけ神様を信じられそうだ。
「さて、まずは……」
あらかじめ何も用意されていないのは想定済み。
今度こそ精一杯生きられるように、僕は行動を開始した。
水、食料、寝床、その他道具にできそうな素材……
すべてがびっくりする程あっさり見つかり、一ヶ月程の日数が経った頃には、安定した生活基盤が出来上がっていた。
そうなると急に暇になり、活動範囲を広げようと思い始めてきたある日。
「っ!!!」
突然凄まじい音が轟き、僕はとっさに耳を塞ぐ事しかできなかった。
空が光ったような気がしたが、音と共に一瞬で消えた。
「一瞬で消える音と光……雷? 今まで雨すら降った事がないこの地で?」
音の大きさから、落ちた場所はかなり近いと推測できる。
初めての異変に不安と興味を抱きながら、僕は周囲を探索し、落雷地点を発見した。
「えっ……」
そこにあったのは焼け焦げた一本の木と、人間の女の子っぽい何かだった。
全体的に色素薄めな、まだ子供と思われる小さな少女……なのかな?
ここに僕以外の人間はいないはずなので、少々怪しい。
「~~~」
?少女 が目を覚ました。
そして身構える僕を確認すると、なぜか嬉しそうな表情でこちらに近付き、話しかけてきた。
「~~~~~! ~~~」
さっぱりわからない。
どこかで聞いた事がある気がするので、おそらく同じ世界の他国語なのだろうが、意味は皆目見当もつかない。
「!」
どうやら向こうもそれに気づいたようで、言葉によるコミュニケーションを諦め、側にある黒こげの木を指差した。
よく見ると、黒い表面に僕の国の文字(ただし超汚い)が刻まれていた。
『にんげんは
つがいがいないとはんしょくできないのを
わすれていました
なのでめすこたいをついかでおくります
このせかいのはんえいのために
どんどんふえてください
かみさま』
……やりたい事はわかるけど、いくら何でもこの子じゃ無理だって神様。
人間は一定以上成長しないと子供が産めないのを知らなかったのだろう。
やけに上機嫌な笑顔でこちらをじっと見つめる少女の横で、僕はどこかにいるポンコツを思い出し、ため息をついた。
「さて、どうしたものか」
本当に、いつかこの世界のアダムとイヴみたいなものになるのか?
結論は出ないまま、僕はとりあえず少女を連れてねぐらに戻った。
将来どうするかはさておき、生活は続く。
試しに生活に必要な技術を手本を見せて教えてみると、少女はそれらを次々と覚えていった。
筋力ばかりはどうしようもないが、器用さにおいては僕よりずっと上で、瞬く間に仕事の半分は彼女の専属となっていった。
一人の時よりむしろ楽になり僕は満足していたが、どうやら少女の方は不満があるらしく。
「……」
自分の仕事をさっさと終え、僕の後ろで頬を膨らませながらじっとこちらを見ている。
やはり言葉が通じないのは不便だが、このままでは埒が明かないのも事実。
僕はこちらの作業を中断して、何とかコミュニケーションを取るために向き合った。
「!(ぎゅっ)」
すると次の瞬間、表情を一変させて僕に抱き着いてきた。
「そっか、構って欲しかったのか」
最初こそ怪しんでいた僕だが、彼女のストレートな好意に悪い気はせず、徐々に二人でいる事が普通になっていった。
「……ん、朝か」
「いつになったら繁殖を始めるんですか?」
「おわぁ!?」
しばらくしたある日の朝、寝起きに聞くには辛いハイテンションボイスがいきなり飛んできた。
「神様! なぜここに?」
「せっかく人間を入れたのにちっとも進展しないから、直接様子を見に来たんです」
「いやいや、そんなすぐにどうこうなる訳無いじゃないですか。現実はアク○レイ○ーじゃないんです」
「私は雨を降らせたり魔物と戦ったりしません!」
「あっ、知ってた。それはとにかく、あの子じゃまだ幼すぎて、もし子供を産むとしても数年先ですよ」
「あのゲームは神の訓練用シミュレーションとして便利だよ、と先輩に教わったんです。それより、人間ってそんなに雄と雌とで成長速度に差異があるのですか?」
「いえ、個体差はあっても男女差は無いはずですけど」
「それなら大丈夫なはずですよ。何せ、生きてる年数はあなた達にほぼ差が無いのですから。確か、人間の計り方で……十日くらい?」
「なん、ですって……」
嘘でしょ!? 僕とあの少女が、同い年?
僕が衝撃の事実にポカーンとしてる間に、話し声を聞き付けた少女がやって来た。
「~~~! ~~」
「~~~~」
神様が、いつか聞いた言語で少女と会話を始めた。なるほど、そこは通じるのか。
「!!」
何かの言葉を聞いた少女がいきなり凄く驚き、何故か涙目でこちらに詰め寄って来た。
「~~~! ~~~~!」
僕の胸をぽかぽか叩きながら、何かを必死に訴えて来る。
「『私は子供じゃないもん、もう子供だって産めるもん』と言ってますね」
それから少女の主張を神様に翻訳してもらうと、僕はさらに驚く事になった。
同じだったのだ、僕の未練、そして決意と。
病弱な体に悩み、自分と関わった人達への謝罪の念を抱きながら命を落とし、この神様に拾われて、今度こそ一人の人間としての人生を全うする。
「そっか……君も、僕と同じ、だったんだ」
気がつけば、僕は涙を流しながら少女を強く抱き締めていた。
「どうやら、もう大丈夫そうですね。それじゃあ私は戻りますね」
さすがの神様も、この空気は壊しちゃいけないと理解したらしく、おとなしく帰って行った。
言葉は通じない、でも気持ちは通じている。
出来る事は違っても、進む道は同じ。
これから、僕達は……
お読みいただきありがとうございます。
二人のその後は……ご想像にお任せします。