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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
銀髪小鬼と家出兄妹
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なんかすごいものついてる、主人公かな?


 とある日の昼、俺は法神の神殿の炊き出しへと向かっていた。この二年間の間に、どの神殿が何時どこで炊き出しするのかを大体は把握できるようになった。前回の炊き出しの際に、次の日程を神官さんから聞き出したのでほぼ間違いないだろう。法神の神殿は炊き出しで提供する料理の量に厳格な基準があるらしく、大地母神の神殿みたいにガッツリとした量を提供してくれるわけではない。だけど、その分味にブレがなくて外れもない。


「お、ビンゴだ」


 スラムと街の境目付近で、炊き出しを求める人たちが既に行列となっているのを発見する。俺は別に炊き出しへ並ばなくても十分腹を満すことは可能だが、タダ飯ほど美味いものはないからね。前世でも地元のスーパーへ半額商品を求めに行き、そこへ群がる飢えた狼共と度々死闘を繰り広げたもんよ。


「おっ」


 そこで、俺は最後尾で手を繋いで並ぶ少年と少女の二人組に注目する。二人とも身なりはしっかりしており、背筋をしゃんと伸ばして立つ様は育ちの良さを感じさせる。おそらく、最近スラムへと堕ちてきた子達だろう。日中早々俺の目の前でイチャつくとは、リア充爆発しろ! ……と言いたくなるが、後ろへ並んだ俺にペコリと会釈をくれた二人の顔立ちはよく似ていた。おそらく兄妹なのだろう。さあ、ということで恒例のステータスチェーックの時間だ‼ ……なんか、逐一チェックするのが癖になっちゃったんだよね。




【アレク】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 : 10歳

HP : 78

MP : 12

力  : 52

防御 : 48

魔力 : 17

早さ : 38

器用さ: 38

知力 : 45

魅力 : 72


加護:剣神の加護


武器適性

剣 :A

槍 :B

斧 :B

弓 :C

格闘:A

杖 :D


魔力適性

火 :E

水 :E

土 :C

風 :E




 ん? 何、加護って? なんか凄いのついてるな、主人公かな? 俺はそのステータスに思わず目を見開く。この二年間で加護持ちなんて、神殿の神官さんにしかなかったし、剣神の加護なんて初めて見たわ。次に女の子の方を見てみようかな。




【エリス】

種族 :人間

性別 :女性

年齢 : 10歳

HP : 43

MP : 41

力  : 20

防御 : 27

魔力 : 82

早さ : 25

器用さ: 40

知力 : 44

魅力 : 85


加護:大地母神の加護


武器適性

剣 :D

槍 :E

斧 :E

弓 :C

格闘:C

杖 :B


魔力適性

火 :C

水 :B

土 :C

風 :C




 わお‼ この子も加護持ちだ! しかも年齢の割にステータスたっけえ⁉ 以前、俺が炊き出しへ参加していた神官さんから加護の話を聞いた時は、辛い修行の末に神様から授かるものだと言っていた。でも、ごく稀に生まれながらにして加護を授かる者がいるらしいとも聞いた。そういった者は愛し子と呼ばれ、とても強い加護を行使できるらしい。この子たちも、そういった類なのかな。


「……何か?」


 つい、ガン見してしまっていたのだろう。少年の方が、俺に怪訝な視線を向けてくる。心なしか、なんだコイツって表情を隠せてないように思えた。……まあ、無理もない。今の俺は、顔面真っ黒のブラックパイナップルだからな。


「……いや、お兄さんたち見ない顔だなって」


 俺は、誤魔化すように視線を外す。前世でもコンビニ店員や赤の他人などとは、あんまり目を合わせられなかった。今回は少年の真っすぐな瞳に気圧されてしまい、前世の時と同じように視線を逸らしてしまう。


「私たち、最近ここに来たんだ。よろしくね! あ、私の名前はエリスっていうの。それで、こっちがお兄ちゃんのアレクだよ。よければ、あなたの名前も教えてほしいなっ!」

「……」


 妹さんの方が、にこやかに自己紹介してくれる。二人共すごく整った顔をしている。兄の方は、黒髪で涼やかな瞳をした美少年。妹さんの方は豊かに波打つブロンドが美しく、お人形さんみたいな可愛らしさだ。それに、この笑顔もスラムでは見かけることが出来ない無垢なものだ。まだきっと、ここに来て間もないのだろう。何となく俺は、前世の甥と姪の健ちゃんと優ちゃんを思い出した。あの二人も、とても仲良しな兄妹だった。このまま目の前にいる二人にも健やかに育ってほしいなと思うが、まあ無理だろうな……。


「お……私はリコ」


 あまり、深入りしない方がいいだろう。その方が後々辛くない。しかし妹さんの方は意に介さず、俺に満面の笑顔を向けてくる。


「そっかあ、リコちゃんかあ。よろしくねっ!」

「う、うん……」

「エリスッ!」


 能天気な妹さんとは違うのだろう。お兄さんの方が叱責するかのように妹を窘める。どうやら、怪しげなパイナップルとはあまり関わってほしくないらしい。


「あっ。ごめんね、お兄ちゃん……」

「……別にエリスは悪くない。謝らなくていい」


 いいぞ、少年。ここは、そんなに甘い場所じゃない。常に警戒しなければならないし、それでもまだ足りないくらいだ。妹さんをしっかり護ってやれよ。そんなことを思っているうちに、炊き出しを受け取る順番が回ってくる。


「行こうエリス」

「うん。じゃあね、リコちゃん」

「ん、じゃあね」


 炊き出しを受け取ると、二人は満面の笑みを浮かべる。ここに来てから、満足に食べられていないのだろう。スラムの底辺にいる子供たちよりはマシだが、それでも少しやつれているようだ。


「あっ」


 兄妹はパンとスープを受け取ると、この場から嬉しそうに立ち去ろうとする。だが、それはここの常識を知らない証拠だ。俺は咄嗟に周囲を見渡すと、立ち去る兄妹を目ざとく見つけたハイエナたちが視線で合図しあっていた。何も知らないカモが来たと思い、狙っているのだろう。俺は急いで二人を呼び止める。


「ねえっ、ちょっと!」

「うん?」

「何か用……」


 あどけなく首を傾げる妹。そして鋭い眼光で俺を見てくる兄。そこには、かなり警戒の色が見て取れる。妹さんを護りたい一心だというのは見ていて解るが、それでも凄い圧がある。この子、どうして10歳でそんな眼光が放てるの?


「いや、今すぐここで食べた方がいいと思うよ」


 俺は、ハイエナ共にチラチラと視線を向ける。そして兄も俺の視線をたどり、ハイエナたちを見てハッとする。察しがいいな、この子。君みたいな勘のいい子供は嫌いじゃない。


「……エリス、今ここで食べよう」

「え? なんだかよくわからないけど、わかったよ」


 二人は、その場で受け取ったパンとスープを貪る。余程、お腹が空いていたのだろう。かなり勢いよく食べていたが、それでも食べ方には育ちの良さが見て取れた。俺も二人がちゃんと飯にありつけたのを見て、ホッとしながらスープとパンを受け取る。うん、今日はちゃんと肉も入っているぞ。俺もすぐに食事を開始していると、兄の方に声を掛けられる。そこには、穏やかな微笑を湛えた美少年がいた。


「ありがとう、リコ」

「……どうも」


 兄の涼やかな笑顔に感嘆する。この余裕ある態度。コイツ、本当に10歳なのだろうか。もしかして、俺と同じく前世でも持ってるのではないだろうか。


「ありがとうね、リコちゃん!」


 妹さんの方も理由がわかっているかは知らないが、俺に感謝の意を伝えてきた。その愛らしさに、俺は息を呑む。だが、このスラムで高い魅力を持つのは危険なファクターとなりえる。……どうしよう、この二人にはスラムのことについて教えるべきか。そう悩んでいるうちに、兄の方が妹の手をつなぎ去っていく。


「あ……」


 あの二人は、ここで無事に生きていくことができるだろうか。そんな思いが湧き上がるも、それを俺は咄嗟に抑え込む。……よすんだリコ。お前は、まだ誰かを助けられるほど強くないんだぞ。


「じゃあねー、リコちゃーん!」


 逡巡する俺に向かって、妹の方が笑みを浮かべ手を振ってくる。俺は、ただ黙って手を振り返した。その後、二人は振り返ることなく路地裏へと消えていった。


「……俺も帰るか」


 あの誰もいない秘密基地に。俺は少しばかり、お互いを支え合える相手のいる彼らが羨ましく思った。そして、あの二人を待つであろう困難を思い憂鬱な気分にもなる。とても笑顔が素敵な二人だった。まだ貧困に歪められていない、優しい笑顔。何事もなく、生き抜いてくれるといいのだが……。

 でも、と俺は思う。護るという困難さを抱えるぐらいだったら、やっぱり一人の方が気は楽に違いない。実際あの少年も10歳という年齢なのに、可哀そうなくらい張り詰めていた。……俺は、やっぱり一人がいいかな。うん、それがいい。今日は、もう帰ろう。2、3日働かなくても食っていける蓄えはあるのだ。早く風呂へ入ってベッドで惰眠を貪り、こんな胸のざわつきは忘れるに限る。

 俺は残ったスープを勢いよくすすると、空の器を神官さんに礼を言いながら返す。そして今日は労働を放棄し、自身のねぐらへと帰ることにした。


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