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「高度医療施設計画の発表パーティーの席で……ゼフィロウの人たちと一緒になった時のことなの。その時にちょっと思い出して、ゼフィロウから電脳のメンテナンスに来ているセシルさんが、単車のすごい乗り手なんだって言ってしまったの。その次の日よ、セシルさんが凶悪犯だって聞いたのは……」
ああ、アロが言っていた話だ。
「誰かが、私のことに気付いて手を打ったのです」
私は踏み込んだ。案の定ナオミは息を飲み、私を見つめた。
「私のせいで危険な目に合わせてしまったの? ごめんなさい。私、なんて間抜けだったのかしら。治安部の精鋭部隊だって聞いたわ。よくご無事で……それにしても、長官は、セシルさんがゼフィロウ領主のご息女だと知らなかったのね。ああ、ほんとにご無事でよかったわ。もし、あなたの身に万一のことがあったら、治安部もただでは済まないところだった。私だって……」
ナオミは蒼白になった。
「私がただのセシルのうちに殺しておきたかったのでしょう」
さらにもう一歩踏み込んだ。
「そんな馬鹿な。あなたがファマシュのお嬢様だと知っていて、それでもお命を狙ったとおっしゃるのですか?」
ナオミはありえないとでも言うように首を振った。
「ゼフィロウのご領主のお嬢様で、しかも、ゼフィロウの治安部長である方が……何故、身を偽ってハルタンの治安部に潜入されたのです?」
遠慮がちに、マリアが聞いた。
「ゼフィロウである物が盗まれた。私はそれを追って来たのです」
「それがハルタンに?」
「そうです、マリア」
私は頷いた。
「でも、ハルタンの誰がそんなことを?」
ナオミが首をかしげる。それから急に真顔になった。
「もしかして、あなたのお命を狙わせたのは……あのパーティーにいた誰かが関係している?」
ナオミ、勘がいいな。私は、思わず笑みを浮かべた。
「私もそれが知りたい。そこで、マリアに聞きたいことがあるのです。ナオミ、マリアと二人にしてもらえませんか?」
「わかりました。あら」
小さなモニターが点滅し、さっきの執事が映った。
「お嬢様、カプリマルグス様がお見えなので、ご挨拶なさるようにとのことでございます」
「お母様が?」
「はい」
「わかったわ」
ナオミは肩をすくめた。
「ネッド・カプリマルグス?」
私は聞いた。
「ええ。このところ、よく見えるの」
少しも嬉しそうではない。それどころか、迷惑だと顔に書いてある。
「ナオミ、ここまでのことは誰にも、たとえお父様にも内密にしてほしいのです。もちろん、私が訪ねていることも」
「わかりました。アロにかけて、秘密は守ります」
「アロにかけて?」
「絶対ってことです」
ナオミはそう言って出て行った。アロもそんなことに賭けられているとは思うまい。だが、ナオミらしい。ナオミは迂闊だ。だが、今はマリアとの話が最優先だ。




