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 部屋に入って来たヨーク・ローツは一同の顔を見て動きが止まった。

「ローツ主任監視官、ここに呼ばれたわけがわかるか?」

 パイアールが聞いた。

「い、いいえ」

「そうか。では、聞こう。あなたは第一級の管理を要するチップをゼフィロウから他の核へ送り出した。一度ならず、四度も。何故だ? そもそも、荷の中身のことは知っていたのか?」

「私が……第一級の管理を要するチップをゼフィロウから他の核へ送り出したですって? 何かの間違いです。荷については、もちろん知りません。場合によっては、人から頼まれることもありますし」

「頼まれる? 中身も知らずにか? ローツ主任監視官、自分のしたことがわかっているのか?」

 通商部長エドモンドの青い目は厳しい。普段は冷静と言われるエドモンド部長も怒りを抑えるのに苦労しているようだ。無理もない。自分の部下がレンの規則を破り、ゼフィロウの信用を地に落とそうとしているのだ。ヨーク・ローツはエドモンドから目を逸らした。従順そうな主任監視官。その役職は、さらに上の地位に上るための通過点だ。多くの有能な文官がこのルートを通り、昇進している。が、もちろん、すべての職員がどこまでも昇進するわけではない。ヨーク・ローツがこの任について既に数年、ローツの地位はここで止まったままだ。それどころか、その地位さえ、今は風前の灯となっている。

「申し訳ありませんでした」

 ローツは身を縮めた。

「ローツ主任監視官、あなたは荷が違法だと知らずにやったのか?」

 パイアールが聞いた。

「はい」

「ローツ、本当に何も知らなかったのだな?」

 静かににらみを利かせる情報部長イアン・レオ。

「は、はい」

 ヨーク・ローツは更に身を縮めた。

「いったい誰に頼まれたのだ?」

 イアンが重ねて聞く。

「それは……記憶になく……覚書でもあれば……探してまいります」

「その必要はない。記憶にないなど、ありえない。探しに行くなど時間の無駄だ。どうしても答えてもらうぞ」

 エドモンドはきっぱりと言った。

「それと、ローツ、我々はあのチップの行き先も危惧している」

 エドモンドは続けた。

「部長、それは?」

「エドモンド」

 私は目で制した。エドモンドが口をつぐむ。パーアールが頷き、小さくため息をついて言った。

「残念だが、ローツ主任監視官、今後取り調べに応じてもらう。また、現在この時をもってあなたの任を解く。通商部に、いや、他の部署でも同様だろうが、あなたの職はない」

 風前の灯が今消えた。

「ただ、頼まれた荷を送っただけなのです。私はこれまで誠実に職務を果たしてきました。それを、これだけのことで解雇とは……厳しすぎます」

 食い下がるローツに、エドモンドは恐ろしい形相で言った。

「厳しすぎる、だと? レンの正規の手続きを経ていないものを外に出すなど、このゼフィロウの信用にかかわる問題なのだ」

「ローツ主任監視官、知らずにしたこととはいえ、責任は取ってもらわねばならない。ただ、この件は公にしない。個人的な理由による辞任という形でいい。そうすれば、あなたの経歴に傷がつくことはなく、このゼフィロウでも、また、他の核でも新たな職を見つけることができるだろう」

 パイアール議長が穏やかに言い、これで一段落と思われたところでローツは顔を上げ、その目が私を捉えた。


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