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「ナオミというのは、アール・ハマリの娘ですか?」

「そうだ。マリアがハマリ家を訪ねることになっていたそうだ」

「アール・ハマリは治安部の秘書官を長く務めていましたが、数年前に引退しました。その後秘書官になったのが、ネッド・カプリマルグスです」

「秘書官は三人と聞いている。テオドール・アッテンボローにはここの治安部で会った。もう一人は?」

「ヴァレンティーナ・レシッタ、主に書記の役割を果たしています」

 端末が鳴った。

「タンベレだ。ナオミと話したんだが、昨夜マリアは来なかったそうだ。連絡がつかなくて、ナオミも心配していた。一昨日のパーティーで会った時には来ると言っていたそうだが」

「パーティーとは、ハルタンの高度医療施設計画の?」

「そうだ。ゼフィロウのお偉方も招かれていたはずだ」

「ああ、厚生課の面々と、最高会議からは議長のパイアール、通商部のエドモンド、技術開発部のブロム」

「ナオミは父親のハマリ氏についていてゼフィロウの人たちと話をした時に……あんたのことが出たらしい」

「私のこと?」

「ああ。その……ナオミが最近知り合ったゼフィロウの営業部員がすごい単車の乗り手だと。ひょっとすると、そこからあんたのことが知れたのかもしれない」

「なるほど」

「申し訳ない」

「アロが謝ることじゃない。それより、パーティーの夜、マリアは変わらなかったんだな?」

「変わらなかった、自殺者のニュースを耳にするまでは」

「どういうことだ?」

「マリアがナオミと話している時に、会場の掲示板にニュースが入ったんだそうだ。そんな目立つものじゃない。ただ、リジエ療養所でトゥヌ・クルヴィッツという老人が自殺したという話だ。だが、それを見ていたマリアは青ざめて、気分が悪いと言って帰ったそうだ」

「メイドマリアン病院で初めてマリアと会ったとき、お前のことで自殺の話が出たが、そんな青ざめるような様子はなかったな。ごく、一般的な反応だった」

「そうか。それと……」

「何だ?」

「例のサンプル、結果が出たよ。ヒトのDNAが出た。あんたや、カップさん、それにカップさんの叔父さんが探している人物かもしれない」

「カップの叔父? 本人に会ったのか?」

「そうだ。ハニヤス・レンバ氏。あの人は信頼できる人だ。あんたのことも知っていると言っていたよ。何でも話せと」

「ハニヤスは何をしているんだ?」

「ハルタンの城で技師をしていた男が城のベランダから飛び降りて死んだんだ。彼らの仲間だったそうだ。その男、ネビルという名なのだが、その男の残したものを調べている。死因を調べねばならないと。早くメヌエットを見つけないととも言っていた」

「ハルタン城内のことは、なかなか公にされない。慎重に動かないと……相手は必死だぞ」

「伝えるよ」

「アロ、ハニヤスと連絡を取り合っているのか?」

「ああ。仲間用の端末があるんだ」

「仲間?」

「そうだ。ゼフィロウのメヌエットを盗むなんて、どうかしてる。それにロリー爺さんが〈天使〉と呼んだあのDNAの主……もし、死んでも新たに生き続けているというなら……そんなこと易々と信じられるものではないが、どんなからくりがあるにしろ、ハルタンが勝手にできるものじゃない。それが明るみに出たら、ハルタン自身が窮地に立たされる。レンを通すべきだ」

「その通りだ。ところで、アロ、私がジョンの家にかくまわれている時に、あの一角から警察隊が引いて別のエリアに移動した。本部からの指示だったのだ。その指示を出した人物に心当たりは?」

「悪いが、思い当たらない。本部の指示なら上層部の了解が必要だが、そうとも限らない。偽情報が先に流れたのかもしれないし」

「そうだな。とにかくありがとう。助かったよ」

「さっきレンバ氏のことを気遣ったあんただが、レンバ氏はあんたのことを気遣っていたよ。俺たちも心配している。気を付けてな、セシル」

「ありがとう、アロ」

 通信を切った。


「さて、面白いことになった」

 私は覗き込むマルトを見上げた。

「ゼフィロウの使節団の中の誰かが、私がラビスミーナだと気づいた。一昨夜のパーティーでのことだ」

「そして、すぐにあの包囲網。つまり、あの中にメヌエットを盗み出した人物、もしくはそれにかかわる人物がいる可能性が高いわけですね」

「ああ。そして、あのパーティーには領主のロマン・ピート、治安部長ハイダー、秘書官の三人もいたのだろう?」

「はい。すぐに話が通じたはずです。あなたが動いていると知り、恐らく不安を感じたのでしょうな。彼らはあなたがゼフィロウの営業部員である間に、あなたを凶悪犯に仕立て上げ、邪魔者を排除しようとしたのでしょう。しかし、大胆にもほどがある」

「恐らく、私が厄介だと考えたのならゼフィロウの者だろうか……まあ、そこのところは大いに気になるところだが、マルト、私はまずリジエ療養所に行く」

「リジエの療養所?」

「リジエの療養所の患者が自殺したのを知ってマリアが血相を変えたというのだ。単車を貸してくれ」

「わかりました。オルクでは目立ちますからね」

「残念だが」

「P1のプライベートパーキングに用意しておきます。P1まではニエド総領事館のエアカーでどうぞ」

「ニエド?」

「ニエドはここの総領事館の改築を考えているのです。それにまつわる設備の相談で、これからニエドの総領事がここに顔を出すのですよ」

「そうか」

 頷いた。


 間もなくニエドの総領事が部下を連れてやって来た。マルトとあいさつを交わし、応接に入る。設備の話とともに、情報交換を行うのだろう。どんな機会も逃さず、腹を探り、知見を広め、人間関係を築くのが彼らの天性だ。

 時間通りにニエドの総領事たちが応接室から出て来た。

「では、くれぐれもよろしくお願いいたします」

 マルトが言った。

「承知しました。大したことではありません」

 ニエド総領事エクシスは私に会釈し、私は彼らのエアカーでP1に向かった。P1までは大した時間ではない。が、やはりハルタンの治安部がゼフィロウ総領事館の周りに張り付いている都合上、マルトの考え通り、エクシスの世話になるのが無難だ。

 乗車中、他の職員がいる手前、ニエド総領事は何も言わなかった。

「ありがとうございます。助かりました」

 降りる際に言った。

「おおよそのところはマルトに聞いて承知しています。お気をつけて」

 マルトと同年配の、落ち着いた雰囲気を漂わせるエクシスは答えた。


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