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「で、その会社は調べたんでしょうね?」
ケイティーが、今度はイアンに厳しい口調で聞いていた。
「会社はもぬけの殻だった。目下調査中」
「代表は?」
「マット・ブッシュという男だが、行方不明」
「メヌエットの行方は?」
「まだ、わからん」
イアンは苦虫をかみつぶしたような顔になった。最高会議で伏せておくべきことはないはずだ。ということは、本当にまだ何もわかっていないということか。情報部としては面目が立たないだろう。
「メヌエットは細密な指令の処理を飛躍的に高める。しかし、普通ならば、今の普及型のチップで十分なのだ」
ジャンが言った。
「普通ならば、な」
イアンは皮肉な口調で答えた。
「あれは……悪用されれば、指令の処理を高めるどころではない。逆に相手の思念に影響を与えることすらできる」
ジャンは不安を口にした。
「レンの許可なく外に出すなんて、とんだ失態よ」
「わかっている」
「そうかしら」
ケイティーはエドモンドを見、それから続けた。
「今後レンが自らあのチップの管理に乗り出すかもしれないわね」
「ケイティー、今度のことは犯罪だ。あれを手に入れたいという意志とその方法があれば、どこでも起こる。たとえそれがレンでも同じことだ」
私は言った。
「あらかじめ予防線を張って置こうというのではないわね、治安部長?」
「そのつもりはない」
「だったら黙っていたらいいわ」
「法務部長、起こった後では何でも言える」
私は付け加えた。余計なことかもしれないが。私のこういうところをシオは心配し、私が最高会議に出るまでの時間稼ぎをしてくれたのだろうが、やはりケイティーの眉はつり上がった。しかし、言わせてもらえば、こういうことはそう簡単に治るものではないし、もう誰かの陰に隠れているわけにもいかなくなった。
「家柄だけで治安部の仕事はできないわ。わかったようなことを言う前に、実績を積むことね」
「法務部長」
パイアールがケイティーに注意を促したが、ケイティーには通じなかった。
「それに……エア様のお友達のハニヤス・レンバ氏、彼はメヌエットがハルタンに発送される少し前から姿を消したそうじゃないの。何でも、ハルタンに行ったとか?」
「父上をお疑いか?」
尋ねた私に、ケイティーは慌てて首を振った。
「いいえ、エア様を疑うなんて、そんなことはないわ。エア様のなさってきたことを考えればありえない」
相変わらず、父上は受けがいい。
「では、ハニヤスを?」
「何とも言えないわ」
意味ありげなケイティーに、エドモンドが呟いた。
「そう言えば、ハニヤス・レンバはハルタン出身だった」
「そう、彼はハルタン出身だわ。長くエア様のお友達として城で暮らしているけれど、詳しいことは知られていないわ」
「ともに酒を飲み、語り合う友はいらないと?」
少々うんざりした。
「まあ、そんなことは言っていないわ。でも、相手をお選びになるべきだと申し上げたいわ」
「ケイティー、話がそれたようだ」
ついにパイアールが議長の役割とばかりに重々しくケイティーを止め、それからインタホンに向かって言った。
「ヨーク・ローツを呼べ」
やれやれ、これでやっと話が進展しそうだ。