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「どうぞ奥へ」

 グリンが奥の応接のドアを開けた。

「いや、ここでいい。治安部長にちょっと話しておきたくてね。ラビスミーナ、爆発現場にいたようだが……巻き込まれれば、大変なことになっていたぞ? あなたが一職員のような軽はずみな行動をとるものではない」

「ご心配には及びません、パイアール議長。私が行った時には、すでに爆発による火災の消火は終わっていましたから」

「それを言っているんじゃないわ」

 法務部長のケイティー・ヴェルナレフが噛みついた。パイアール議長が心配そうに顔をしかめる。

「ここ数日、君と連絡が取れない。いったいどこにいたのだね?」

「父の用事を済ませていました」

「ガルバヌム様からは神殿にいたともお聞きした」

「ええ。妹のことで、たまにはおばば様と話をするので。あの子はおばば様の身内も同然なのだから」

「大巫女様のことを身内同然なんて言い方、どうかしら」

 ケイティーが眉をしかめ、パイアール議長も頷いた。

「それと、ラビスミーナ、これからはどこで何をしているか、我々に知らせてもらえないだろうか?」

「最高会議にご迷惑はおかけしていないはず。私がどこで何をしようと、職務に支障をきたさない限り、いちいち報告の義務もないでしょう?」

「まあ、議長になんて口をきくのかしら」

「お気持ちを傷つけたのであれば、謝ります。が、最高会議に目下の任務の内容と所在の報告の規定はないと思いますが。どうですか、法務部長?」

「それは、治安部長が言う通りだわ」

 ケイティーは渋々認めた。

「エドモンドは自分の部署の失態で頭がいっぱいだ。私も暇ではないのだが、心配するお二人に誘われてやって来たものの、ラビスミーナ殿はお元気そうだ。私はこれで失礼する」

 情報部長のイアン・レオがきびすを返した。

「そうね、パイアール議長、心配もほどほどにしないと。万事その調子では、会議の方もしまらないわ。そうじゃない、イアン?」

「ケイティーは言いすぎだが、私もそう思います。周りに気配りするだけでは、仕事は進まない」

「それは……すまない」

 年下の二人に言われて、パイアールは項垂れた。

「ラビスミーナ、私はこれで。だが、私があなたの身を案じていることは、くれぐれも忘れないでくれ。部長が先頭に立って危険な目に合うことはないのだ」

「それは、役職と見合わないかと」

「しかし」

 続けようとするパイアール議長を私は遮った。

「ところで、ヨーク・ローツが自殺したことをご存知ですか?」

「何……ローツが、自殺?」

 たった今、治安部に入った知らせだ。案の定、パイアール議長は信じられないように私を見つめた。

「ローツはハルタンにいるはずよ?」

 ケイティーも私を見つめた。

「しかし、確かなようだ」

 レオが着信したばかりの端末を確認し、頷く。

「ローツがハルタンに行く許可を出されたのは、議長、あなただ」

 レオがパイアール議長に目をやる。

「そうだ、だが、まさかこんなことになるとは……ケイティー、調査を、調査をしなくてはならんな。ローツが死ぬとは……大変なことになった……」

「これで我々はメヌエットを盗んだ犯人につながる有力な手がかりを一つ失ったわけだ」

 レオはパイアール議長に背を向けた。

「ああ」

 がっくりと肩を落としたパイアール議長が、イアン・レオに続いて治安部長室を出て行く。

「治安部長」

 二人の後を追ったケイティーが振り返った。

「親切心から忠告しておくわ。ここはちょっとした失敗が命取りになるの。勝手なことをして足をすくわれないように気を付けるのね、お嬢様」

 扉が閉まる。

「やれやれ、言いたいことだけ言って去って行った、そんな感じだ。出足を挫かれた気がするな」

「はい。あの、ラビスミーナ様……」

「何だ?」

「私はラビスミーナ様がいらっしゃらない間、二度ほどヨーク・ローツの尋問に立ち会っています。断固とした意志を持っていた。自信と言ってもいいような……あのローツが自殺したとは、どうしても思えないのです」

「証拠がない」

「それに、あの写真……エドゥアルド・トゥビンの……私はあれが頭から離れません。犯人は至極冷静です。その上、狂気なら……」

 グリンは言葉を濁した。グリンは細かいところに目配りができるすぐれた副官だ。だからこそ、私に言いたいことは山ほどあるだろう。心配してくれるのもわかる。が、言っても無駄なのだ。どちらにしろ、私はハルタンに行くのだし、核心に迫れば、やがてトゥビンを殺した犯人と顔を合わせなくてはならないだろうから。

「ありがとう。せいぜい気を付ける」

 人は何と言うか知らないが、用心深いのは私の取り柄だ。


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