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 シェルのポートからサブウェイに乗って倉庫近くのラスティー駅で降りた。そこから問題の倉庫まで大した距離ではない。新しいものから古いものまで、さまざまな倉庫が立ち並ぶ地区で、見通しが悪く、歩行者の数も少ない。

 問題の倉庫はきれいに片づけられ、がらんとしていた。監視カメラは故障したままだったが、それでも周囲には監視カメラが生きている倉庫もあるはずだ。業務のふりをして出入りしたエアカーは映っていないだろうか。もし、業務用のエアカーを使ったなら、犯人のヒントが掴める。そうでなければ……歩いている人物の中に、それらしい者はいなかったか。どこかでエアカーを調達した者は?

 倉庫を出て、エドゥアルド・トゥビンの家に向かう。が、途中で治安部警察課のエアカーに出くわした。それも数台が続く。いやな予感がしてエアカーの行く方向に走り出した。きな臭いにおいがする。住民が往来に出て一方向を見ている。家が……煙に巻かれていた。このセジュで火事などごく珍しいことだ。しかも、民家。ありえないことだ。そして、そこは思った通りトゥビンの家だった。

「あ、部長、部長じゃありませんか?」

「おひとりですか?」

 消火活動が終わり、煙っている家を出入りしていた警察課の職員が私に気付いた。

「何があったのだ?」

「爆発事故です。ただし、家の者のせいではありません。外部の者が書斎に仕掛けたようです。材料は誰でも手に入れられる薬剤で専門の知識がなくても作れます」

「けが人は?」

「幸い、おりません」

「そうか、よかった」

 蒼白な顔をした中年女性が警察課の職員の間に見えた。女性は煙を吐く家に向かって泣きわめき、落ち着かせようとする職員たちを振り払っていた。

「部長」

 近づく私に職員たちが後ろに引いた。

「トゥビン夫人ですか?」

 女性は振り返って叫んだ。

「そうよ」

 追い詰められて感情を爆発させるしかなかったようだ。女性は男の子と女の子二人の子供たちを引き寄せた。凶暴な目に正気が戻り始めている。

「治安部の者です。消火は済みましたが、中に入るには少し時間がかかるでしょう。それまでこちらでお話を聞かせてください」

「話なんて。それどころじゃないわ」

「そうでしょうとも。ですが、お子さんたちにとって最後の頼りはお母様なのです。さあ、気をしっかり持って」

 私はトゥビン夫人と子供たちを警察課の大型バンの中に案内し、座らせた。

「どなたか頼りになる人はいますか?」

 夫エドゥアルド・トゥビンが亡くなったのを知ったばかりのはずだ。興奮してはいるが、疲れてもいたのだろう。夫人は両側に座らせた子供たちに目をやって小さな声で答えた。

「兄がいます。しばらくそこでお世話になることになっていたのです。ここからそんなに遠くないのです」

「わかりました。お疲れでしょう。お送りします」

「そうしていただければ……ここにいても何もできることはないし、気がおかしくなりそうだわ」

「では、あちらのエアカーで」

 言ってはみたものの、気が変わった。

「少しお待ちください」

 現場を離れて、思念で一般のエアカーを拾った。トゥビン夫人と子供たちを呼んでエアカーに乗せる。

「ご住所を言ってください」

 夫人が無人のエアカーに告げた。エアカーが走り出す寸前に、夫人についていた職員がやって来た。

「お待ちください。警察課のエアカーがあります。お使いにならないのですか?」

「いい。送るくらいなら、どのエアカーでも構わないだろう。後は宜しく頼む」

(出ていい)

 思念でエアカーに命じる。安全を確認してエアカーが動き出した。通りに出ている人たちをゆっくりと避け、やがてスピードを増す。

「申し遅れました。私はラビスミーナ・ファマシュ、治安部長です」

「やはり。そうかと思ったのですが……目を疑いましたの。でも、おそばで見ると、思った以上にエア様に似ていらっしゃいますわ。こんな時にお会いするのでなかったら……」

 トゥビン夫人は、バッグからハンカチを取り出して目を押さえた。ふと、バッグの中に封筒が見えた。

「失礼ですが、その封筒は?」

「これは、夫がふざけて私のバッグに入れたのです。何のことかさっぱりわからない写真ですの。でも、大事にとっておいてくれって言うものだから」

 また涙を拭く。

「見せていただけませんか?」

「どうぞ。でも、ほんとにつまらないものなのです」

 渡された封筒を開けた。白いモザイクのかかった深い海の画像。それと……小型記憶媒体。爺さんの潜水艇のものに間違いない。

「トゥビン夫人、これをお借りできますか?」

「ええ、構いませんが、どうしてなのです?」

「恐らくあの爆発、これと関係があると思うのです」

「えっ、何ですって?」

 夫人は震え出した。が、その目はしっかりと私を見ている。

「欲しいものが見つけられなかった犯人は、用心のために家を爆破してしてしまおうと思ったのでしょう。火力の強い爆発物でしたから。あなたがこれを持っているとわかったら危険です。この封筒のことは絶対に内密に。たとえ治安部の人間に聞かれても、何も言わないでください」

 夫人は黙って頷いた。治安部の職員が同行しなくてよかった。故意にしろ、偶然にしろ、秘密は漏れるものだ。知っている者が少ないに越したことはない。治安部の車に外部からの仕掛けがある可能性だってある。

「大丈夫。犯人が見つかるまで護衛をつけます。わずらわしいでしょうが、しばらくの辛抱ですよ」

「ああ、あの人ったら、あんな姿で……それだけじゃない。何か恐ろしいことに巻き込まれたのね。ああ、どうしよう……」

「心配しないで、もう悪いことは起こりません」

「ええ、ええ」

 トゥビン夫人は両腕にしっかり子供たちを抱いた。


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