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 私はジョンを乗せ、走り出した。朝の空気の中を駆けていく。どんなものでも、たとえオルクでなくても、爽快だ。これから走るコースを決める。スピードの出せる見通しのいい通りと、変化に富んだ路地の組み合わせがいい。ここをまずは一周、それから、高く飛んでみよう(オルクは陸海空に対応した破格の単車だが、普通の単車は空中には対応しない。一方、タイヤがあるので、それをうまく使ってジャンプしたり、着地の衝撃を和らげたりできる。障害物があるレースではこの技術は必須だ)

「ジョン、コースは覚えた? 行くわよ」

 それまでの緩やかな動きではなかった。ジョンの単車が、鞭打たれたかのように加速する。ジョンが硬くなった。

「しっかり前を見て。頭を働かせて、手順を思い描く」

「う、うん」

 頼りないが、構わない。

「左前方の走者が寄って来た」

「え?」

「想像して」

「あ、ああ」

 直線で一気に加速し、歩道のスロープを使って飛ぶ。

「うわっ」

「やり過ごしたと思って着地したら、右からスリップした走者が突っ込んでくる」

「ええっ」

 素早くスピードを上げ、急カーブ、細い路地に入り込む。

「おっと」

 路上に置きっぱなしになっていた練習用の踏切板を利用して空中に浮上、滞空時間を楽しむ。(ジョンはどうだか知らないが)そのまま降下。

「うわぁぁ」

「目を開けて、何が見える?」

「鳥、鳥だ。あんなに」

 ジョンが窓辺にから飛び立つ鳥を見て叫んだ。

 我々の祖先は、移住した時に鳥を持ち込んでいて、市街で暮らせる種類の鳥は何種か放してある。

「飛べたらいいなあ」

「ああ」

 私は興が乗って、ジョンの単車の噴気を使ってビルの壁、ポール、フェンスを飛び移りながら、鳥の群れを追うように上昇した。さっきよりもずっと高く、空に向かって。下にみすぼらしいビルが見える。

「目は開けている?」

「う、うん。何とか」

「優秀だ。さて、どうやって降りる?」

「ええっ」

「大丈夫、ゆっくり行くから」

 出力を最大にし、噴気で車体をコントロールしながら二、三回壁に車体をバウンドさせ、路地に降りる。そのまま路地をいくつか巡ってゴール。ジョンはカチカチになって自分の単車からぎこちなく降りた。

「セシルさん、あんた、誰だ?」

「答える気はないわ。ジョンは思念を使わない運転をしてみたかったんじゃないの?」

「そうだけど……でも、こんなことまで」

「そう、文字通り、朝飯前」

 私は肩をすくめた。

「やってごらんなさいよ。ただし、ゆっくりと、自分の思い描くように操縦して。決して焦ってはだめよ。気持ちを持って行かれるわ。レースは勝つことも負けることもある。ずっと技量が上で、素晴らしい単車を持っている走者とレースをすることもある。それでも自分とあなたのこの相棒に何ができるか、その最善を考えることよ」

「自分よりも技量が上で、素晴らしい単車があって……」

「そう、それでも」

「最善を考える?」

「自分の走りをイメージするの。それが全て」

「俺は、上手くなることばかり考えて、才能がないことに落ち込んでいたよ」

「プロになるかどうかは別として……何より走ることが好きでなくては」

 ジョンは頷いた。

「ちょっとやってみるから、見ていてくれる?」

「ええ」

 体が硬かったジョンが自分の単車にまたがり、ゆっくりと走り出した。直線の加速、ほどほどに、しかし、確信がある。そう、レースの時のジョンは加速が問題だった。が、操縦が手動となって滑らかに加速する。その後が乱れた。路地に曲がったところでスピードが落ち、持ち直そうと上げたところで方向がぶれ、時間をロスしている。まあ、最初はそんなものか……二回り目はいくらかましになった。

「ちょっと慣れないけど、前より気持ちがいい。俺でも……手動だとあれだけ早く加速に入れるなんて思わなかった」

 単車を降りたジョンが言った。

「そのスピードに慌てないこと。そしてあなたの相棒は必ずあなたのコントロール下に置くこと。たとえ、最後尾を走っていてもね」

「うん」

「以前よりも単車との一体感が増した気がするわ」

「ありがとう、セシルさん」

「焦ってはだめよ」

「肝に銘じる」

「さあ、私は行かなくては。ブロックを解きましょうか?」

 私はジョンの顔を覗き込んだ。

「いい、このままで」

 ジョンはにこやかに答えた。

「そう? 必要なら、ロリーに言えばすぐに元通りにしてくれるわ」

「わかった。ポートまで行くの? 送るよ」

「じゃ、お願い」

 私は荷物を持ってジョンの後ろにまたがった。


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