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「ほほう、元気そうじゃな、ラビス」

 早速大巫女ガルバヌム、おばば様が画面いっぱいに出た。

「ええ、おばば様も、お元気そうで何よりです」

「ありがとうよ」

 おばば様は、すっかりセシル・フレミングになっているつもりの私を見ても、まったく気にする様子がない。わかってはいたが、少々残念だ。

「私たちは席を外しましょう」

 マルトが言った。が、おばば様は断った。

「総領事、そして、そちらは副総領事かな? 二人とも聞いていてくれて構わない。厄介ごとが起きたせいで、ただでさえ忙しいお前たちに世話にならなくてはならないのだ。面倒をかけるな」

 それは……私が面倒をかけていると言いたいのか? そう言えば、こんなところまでおばば様が顔を出すとは……説教されるようなことはまだ何もしていないはずなのだが。私は首をかしげた。見れば、マルトもエステルも恐縮している。おばば様の威力は大したものだ。

「で、ご用件とは?」

「ああ、それじゃ。ラビス、明日にでも神殿まで来てくれないか。そこで話があるのじゃ」

 その表情からは何も読めない。

「話? しかも神殿で、ですか?」

 セシル・フレミングとしては、チューブを使っても、新交通システムデミウルゴスを使っても、ゼフィロウとの往復に一日取られてしまう。メヌエットの手がかりすら掴んでいないというのに……

「渋っても無駄じゃ、ラビス。レンの調査団がゼフィロウに来て、保管庫からメヌエットを持ち出した可能性のある人物全てのアリバイを調べている。当然のことだが、お前もリストに入っている。それを済ませるようにとエアからの伝言だ。だが、その前に私のところへ」

「わかりました」

 これで一日、いや二日は取られる。

「よい旅をな」

「わざわざ呼んでおいて、それだけですか?」

「そうじゃ、話は神殿で」

 おばば様は笑い、通信が切れた。

「レンの調査団ですか……これでメヌエットを盗んだ犯人を特定できるかもしれませんね」

 マルトはレンの調査団の成果に期待を寄せた。確かに彼らは有能なのだろうが……

「そうだな」

 私は曖昧あいまいに答えた。

「しかし、神殿でお話とは、何事でしょう?」

「まあ、行ってみるしかない」

「手配いたしましょう」

 エステルが言った。

「ありがとう、エステル。でも、自分でする。それと、マルト、昨夜はありがとう。助かった」

「ロリー・ラスキングへの暴行に、アロ・タンベレへの傷害事件。ハルタン治安部の動きがおかしいのは確かです」

「彼らは二人に余計なことを言ってもらいたくないのだ」

「それは?」

「ロリー・ラスキングは巡視中に不審に思ったものを撮影した。妨害電波のせいで映像が台無しだそうだが、治安部の奴らはロリーが撮影したものが何なのか知っているのではないだろうか」

「治安部が秘密にしておきたいもの、ですか」

「ああ、遺体に見えたとロリー爺さんは言っていた。その映像の入った記憶媒体を借りようと思ってp5に行ったのに、治安部が持って行った後だった。爺さんはそれを天使と言っていた。天使か……マルト、何か思い当たることはないか?」

「残念ながら、今のところは何も」

「そうか。ところで、情報部の方は何か掴んだだろうか?」

「メヌエットを受け取った製薬会社については調査中、それに加えてハルタンの城でロマン・ピート様の動きを探っているようですが、こちらも、まだ何も掴んでいないようです」

「情報部のイアンはハルタン領主ロマン・ピートがかかわっていると考えているわけか」

「厄介な所から手を付けようということでしょう。関係なければ一番ありがたいのですが」

 マルトは肩をすくめた。

「どうかな、ハニヤスが動いたということが気になる」

「そうですね。ハニヤス・レンバ氏は領主と親戚関係にありますし」

「うん。ところで、マルト、一連の自殺者について、何か関連性は?」

「ここのところの自殺者たちですね? わかりません。彼らは、エンジニアに、研究者……研究者が目立ちますね。研究テーマはそれぞれ、クローン、放射線、自己増殖システム、種子……」

「種子?」

「増殖システム研究の一環でしょう。研究材料に植物を選ぶのは特別珍しいことではありません」

「そうか……それで、自殺者が目立つようになったのはいつごろからだ?」

「一週間前ごろでしょうか」

「メヌエットが盗まれたのも知らずにのうのうとしていた我々が、やっと事態に気付いて、慌てだしたころだ」

「ラビスミーナ様は、ハルタンでのこの自殺騒ぎとメヌエットが関係あると?」

「馬鹿な話だと思うか?」

「メヌエットを使えば、思念に働きかけることができますが……」

「ああ、自殺を促すこともできるのではないだろうか」

「でも、邪魔な者を殺すだけなら、他にも方法があるでしょう? わざわざゼフィロウの保管庫からメヌエットを盗むなど、よほどの覚悟です。犯人が誰だか知らないが、ゼフィロウを敵に回すことになるのですよ? まともに考えれば、割に合いません」

「そうだ、確かに自殺に見せかけて殺すためだけなら、メヌエットを盗むのは割に合わない……が、とにかく自殺者の死ぬ前の状況を調べてくれ」

「はい」

「ありがとう。さて、帰るか」

「お送りしましょう」

「いいや、エアカーを拾うからいい。セシルで通したいんだ」

「わかりました。では、お気をつけて」

 マルトは総領事の顔に戻った。この微笑み、相手に柔らかい印象しか与えない父上の笑みに似ている。マルトも敵に回せばなかなか手強い相手だろう。


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