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「第三走者」

 係員に呼ばれた。私のスタートは最後だ。そんなことはどうでもいい。胸が高鳴った。レース参加者は男性が多いが、女性もいる。第三走者の女性は、私以外にもう一人。彼女が四位通過した走者の後を引き継いでスタートした。さあ、ジョン、来い。ジョンが直線コースに近づいた。私の番だ。ジョンが八位と間を開けられたせいで、スタートに遠慮はいらなかった。私は爺さんの単車を思う存分走らせた。壁、溝、泥濘、ジャンプでこなす。さらに高い壁、駆け昇る。急な下り坂、加速して飛び上がる。ここで私は真ん中くらいの位置につけていた。次は直線コース。遠慮なくコーナーを取る。追い上げる私に気付いて、前の走者が車体を揺らした。抜かせない気だが、こちらも揺らし、内側ぎりぎりを抜く。揺らした方はタイヤが滑り、私の後ろの走者と接触した。迷惑をかけないためには抜け出すに限る。私は飛び出した。それにしても爺さんの単車は反応がいい。これはマックスを出してやらないと単車に失礼だ。私は爺さんの単車の限界スピードを出し、それから減速して流した。轟音を上げてラストスパートする二台が私を抜いて行く。私はゴール横のマックとジョンの前を駆け抜け、車を止めた。三位で予選通過は予定通りだが、途中ちょっとやりすぎてしまった。高揚感と気まずさが半々で単車を管理室に預けに行くと、後を追って来たマックが言った。

「あんた、プロだろう?」

「どこでレースをしていた?」

 待っていた爺さんも聞いた。

「レースをしたことはありません。好きなだけで」

 マック、ジョン、そして足を引きずるアランが首を振った。

「信じられるか」

 爺さんが言った。

「詮索はしない主義では?」

「そうだった」

 爺さんは苦笑した。

「そう言えば、レポの生徒は絡んでこなかった」

「あんなふうに走られたら、絡めないよ」

「セシルさん、ジョンの言う通りだ。まったく、あんたは……」

 言いかけて爺さんは続きを飲み込んだ。

「とにかく、面白いものを見せてもらったよ。ありがとう」

「こちらこそ、いい単車で楽しませていただきました」

「さて、予選レースはこれで終わりだ。鮮やかなレースをしたあんたのことをいろいろ聞かれる前にここを出よう。俺はアロのところへ顔を出す」

「私はゼフィロウの総領事館を訪ねます」

 私は頷いた。

「総領事館とは?」

「人探しをしなくてはならないのです」

「人探し?」

「ええ、ゼフィロウの父の友人なのです。こちらへ来て行方が分からなくなったものですから、父が心配して」

 嘘ではない。

「そうか。総領事館に相談すれば間違いないだろうが、うまく行かないようなら声をかけてくれ。俺でも何か役に立つことがあるかもしれん」

「ありがとう、ラスキングさん」

「ロリーでいいよ」

「こちらもセシルで」

「わかった。じゃあ、セシル、P5へ送る。それでいいか?」

「ええ」

「あんなスピードが出るなんて」

 ぼんやりと私を見ていたアランが呟いた。

「限界以上?」

 マックが爺さんに聞いた。

「いいや、ぴったりだろう」

 爺さんが私を見る。

「ええ、そうです。せっかくあそこまでスピードが出せるのに、出さなかったら失礼だから」

「なんとまあ、そこまで信頼されたら、これはメカニック冥利に尽きる。あんたのメカニックは幸せ者だ」

 爺さんはウィンクした。

「そうでしょうか?」

「そうだね」

 マックも頷く。

「次は、しくじらないぞ」

 アランが拳を上げた。

 爺さんが頷く。

「その意気だ」

 みんな笑った。私は着替え、その間ジョンとマックが爺さんとアランの単車を回収した。それから、ジョンとマックは自分の単車を回収すると、爺さんと私は爺さんの潜水艇で、他の三人はおのおのの単車でUドームを後にした。


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