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 救護室に入ると、アランが途方に暮れたようにベッドに座っていた。

「セレンさん」

 爺さんが振り向いた。

「どうですか?」

「頭を打ったが、そっちは異常がない。ただ、はさんだ足の傷がひどくて、リレーに出るのは無理だ」

「畜生」

 アランは叫んだ。

「仕方ないさ。また、次がある」

「ロリー爺の単車が予備登録してあるはずだ」

「ああ、だが、俺は乗らん」

「どうして? 元プロの選手もこのレースに参加している。いいじゃないか、一回ぐらい」

「そうだ、いいじゃないか、ロリー。久しぶりにその腕を見てみたいものだ」

 レポだ。レポが救護室に入って来た。

「それとも、もうすっかり老いぼれて、レースはまっぴらというわけか?」

 レポは気持ちよさそうに笑った。

「何しに来たんだ?」

「俺の生徒が滑ってその怪我だろう? 心配したんだ」

 どう見ても心配していない。楽しんでいるのがありありとわかった。

「さあ、どうするね? レースに出るか、こいつに次まで我慢させるかだが、選手にとってモチベーションは大事だぜ?」

「帰れ」

「臆病者」

 レポはにやりと笑って部屋を出て行った。

「出よう。ただし、これが最後だ」

 爺さんはレポが出て行ったドアを睨んで言った。これでは奴の思うつぼだ。

「ラスキングさん、やめてください」

 言ってはみたが、嫌な予感しかしない。

「マックはどうだった?」

 爺さんの目は座っている。隠しても仕方ないだろう。

「実は、マックも怪我をしたんです。リレーに出られないほどではありませんが」

「マックまで?」

「ええ、アランもマックも怪我の原因はあのレポという男の生徒の操作ミス。でも、本当にミスだったのかしら? わざと……ではありませんか? 現に、ああやってあなたをあおりに来た。あの男はあなたを恨んでいます。あなたが出たら、危険です」

「そんな……」

 アランがあっけにとられて私を見た。

「そんなことなら、ロリー爺、いいんだ、やめてくれ。俺は来年のレースに賭けるよ。リレーはお預けだ」

「いいや。俺は出る。腕はなまっているかもしれないが、まだまだ奴の生徒には負けん」

「ロリー爺、止めてくれ」

 アランは必死だった。ここは……

「ラスキングさん、私が出ましょう」

「えっ?」

「何だと?」

 二人が同時に頓狂とんきょうな声を上げた。

「アラン、予備のレーススーツはある?」

「ある、けど」

「ヘルメットも貸してちょうだい」

「だって、あんた……」

 アランは呆れ、疑わしい顔をし、爺さんは厳しい顔で私を見た。

「冗談じゃない。あんたは乗れるかもしれん。俺の単車に触れたあんたを見て、俺はそう思った。それは確かだよ。だが、俺はあんたを危険な目に合わせるわけにはいかん」

「ラスキングさん、私がちょっと武道のたしなみがあるのを知っていますね? これ以上邪魔するようなら、気を失ってもらいますよ」

「俺を叩きのめすってことかい?」

 爺さんは目を丸くし、アランと顔を見合わせた。

「場合によっては」

 話が思わぬ方へ転がったが、これも仕方がない。

「アラン、スーツ」

 アランが黙ってバッグの中からレーススーツをよこした。椅子の上に置かれたアランのヘルメットを抱える。

「ありがとう。登録に行ってきます。予選は通ってきますよ」

「本当に大丈夫なのか?」

 アランは爺さんに詰め寄った。だが、こちらもぐずぐずしていられない。登録を済ませ、爺さんの単車の操作を確認しなくてはならない。


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