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そのシオが一月前に死んだ。自宅で静かに息を引き取ったのだ。その晩は家族と親族のみが集まり、その中にそっと混じった父と私は短くシオと最後の別れをした。
その後、公の葬儀が行われ、内外の弔問客でゼフィロウ最大の瞑想の家は溢れかえっていた。父は多くの客に取り巻かれている。取り残された私に夫人が気が付いた。私に近づきながらも、夫人は弔問客と言葉を交わす。ようやく私のところにたどり着いた夫人に、お悔やみの言葉を言うと、夫人は頷いて礼を述べ、それから言った。
「ラビスミーナ様、お渡ししたいものがありますの。後で屋敷の方へおいでいただけませんか?」
多くの客に手違いがないよう挨拶して回っていた夫人の声は、その気丈な態度を裏切って少し震えていた。
「わかりました。いつ窺えばよろしいでしょうか?」
「明日、ご都合がよろしければ」
銀色の混じった亜麻色の髪がきちんと結い上げられている。
「伺います」
私は答え、夫人はほっとしたように胸を押さえた。
「お疲れのようですね。これだけの弔問客です。お相手はほどほどになさっても不義理にはなりませんでしょう? どうかご無理をなさらずに」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですわ。夫シオが体調を崩してから……覚悟はできていました。十分な医学的処置をとってシオは安らかでしたわ。私たち満足していましたの」
夫人の目に涙が浮かび、私は夫人の手を取った。
「いつでも、どんなことでも、お役にたてることがあったら仰って下さい」
「ええ、そうさせていただくわ。ありがとう、ラビス」
時々顔を出していたシオの屋敷。この先、折に触れて顔を出そう。
翌日、夫人はシオが前々から用意していた文書を私に渡した。最高会議の籍を私に譲るための文書だった。
「夫はこれを私に渡しながら、あの子はもう大丈夫だと言って笑っていましたわ」
夫人は言ってくれた。励ましと思われるその言葉を胸に(シオは皮肉や、場当たり的なことを言うタイプではない)、いささか不安を抱えながらも、私は最高会議のメンバーになった。
会議は定期的に開かれているが、臨時の招集がかかる場合もある。前回の定例会議では私に対するメンバーの儀礼的なやりとりが行われたが、今回は臨時会議だ。会議の内容はわかっていた。