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 大会が管理していた単車が、それぞれのコースに用意された。いよいよだ。アランが第六コースの単車を起こした。レポと話していた選手も第四コースの単車を起こす。

 全員が揃い、ブザーとともに一斉に走り出した。アランはP5ポートにいた時のアランとは思えない(失礼)冷静なレース運びをして、まずは四番手につけた。壁を乗り越える。上手い。溝、危なげなく飛んだ。泥地も……いや、これは他の選手の泥をかぶったが、スピードは維持していた。レースに支障があるほどではなさそうだ。これで四位から一つ落として五位。急な下り坂で一気に加速、そこから上へジャンプしてコースに戻り、後はストレッチ、駆け引きのうまさがものを言うところだ。そこで三位につけ、アランはそれを維持した。最後の一周。このまま行けば予選通過だ。ここで猛然とトップ争いをしていた片方が脱落し、アランとの距離が縮まる。アランがラストスパート、だが、二位の選手のスピードがさらに落ち、そればかりか、横滑りを起こしたかのような動きをした。慌てたアランがよけようとしたが、操作が追い付かない。今度はアランが横に大きく滑ってコースを外れ、滑った単車の下に挟まれた。観客がどよめく。すぐに救護班が駆け付け、アランを救い出した。アランは支えられて立ち上がったが、足を引きずっている。レースは終わった。一位、二位は変わらず、三位に入ったのは、アランの後ろを走っていた選手だった。爺さんが駆け寄り、アランに声をかけていた。次のレースに控えていたマックに爺さんが頷く。

「マックのレースを見ていてくれ」

 爺さんは一階に駆け下りた私を見て言うと、アランについて行った。選手はもうコースに揃っていた。再びブザー。唸りを発して走り出す単車。まずいと思った。マックはレースに集中しきれていない。八位、後ろから二番目だ。二周目、マックが私の前を通る寸前に私は叫んだ。

「集中して、マック」

 声が届いたのだろうか? マックは徐々にレースを建て直し、本来の力を発揮し始めた。一つの障害で一人ずつ抜いて行く。あと一周。気持ちを維持しろ、マック。フリーのコースは一位から五位までが団子状態だった。集団が揺れ、マックと二人の選手が集団から脱落した。しかし、マックは最後に猛然とダッシュした。三位。予選通過だ。私はマックに会うために、走った後の単車を預かる管理室に行った。そこで車はもう一度検査を受け、持ち主に返されるのだ。

「マック」

 私は単車を転がして戻って来るマックに声をかけたが、すぐにその指がテーピングされているのに気が付いた。服には血が付いている。

「それは?」

「団子になった時にぶつかったんだ」

「相手の選手は?」

「怪我はないと思う」

「そうじゃない、何という選手だ?」

 私はプログラムを出した。マックはどうしてそんなことを聞くんだという顔をしたが、それでも答えた。

「テオ……とかいったかな?」

「レポのところの所属だ」

「レポ? それが?」

 アランの前で滑って、それでも二位に入ったのもレポのところの選手だった。偶然かもしれないが、何とも嫌な感じだ。

「すぐにこれを置いてくる。ジョンのレースが始まる」

 マックは引き取った車をポートのドックに預けに行き、息を切らせて戻って来た。

「よかった、間に合った」

 ジョンのレースは終わりの方で、プログラムによると、これにもレポのところの選手はいたが、彼は断トツの一位、ジョンは最初から最後まで最下位争いをし、八位で終わった。

「最後にはならなかった、他の選手が強いのばかりだったし、奴としてはまあまあだ」

 マックが言った。

「ジョンを迎えてくる。アランは次のリレーに出られるかどうかわからないな」

 マックは無意識に自分の指を押さえながら言った。

「ラスキングさんは、予備のために自分の単車を登録していたわ。アランがだめでも……いいえ、ラスキングさん自身がレースに出るのはどうかと思うわ。アランがだめなら、リレーは諦めるのね」

 一瞬明るくなったマックの表情がまた暗くなった。

「わかってる」

 私はマックと別れ、救護室に向かった。貴賓室に上がって行く男がいる。レポの後ろにいた男だ。近づいて後を追った。貴賓室からレポが出て来た。二人が脇へ寄る。何しろ、こちらはいささかこの場にそぐわない場違いの格好なので少々目立つ。だが、そこは人混みに紛れることにする。貴賓室の前を興奮気味の客が大声で話して通り過ぎた。Uドームの係員が別のところに行くよう注意しているが、そんなことはお構いなしだ。貴賓室の中は防音だろうが、ここでは様々な人の声が飛び交い、混じる。私はレースに目をやりながら、彼らの近くまで行った。

「最初のがうまく行った」

 レポが言った。

「二番目のはちょっとした挨拶さ。奴は出るかな?」

 もう一人の男。

「出てもらわないとな。後は、わかっているな?」

 二人は自分のところの選手のことを言っているのだとも取れる。まあ、当たり障りはない。

「あいつを引っ張り出して恥をかかせてやる。奴が大好きなメカいじりができなくなったらせいせいするな」

 レポが笑った。決まりだ。何てことだ。アランのことは爺さんを引っ張り出すためにわざとやったわけだ。爺さんをレースに出してはいけない。


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