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「これが、脱出用カプセル代わり……」

「そうだ」

「これは、ずいぶんいじってある」

 青に渋い銀が絡む。排気口から車体、そしてハンドルの部分までが彫刻のように美しい。

「わしの愛車だった。今も変わらないが」

「ロリー爺は、昔これでUドームの単車レースのチャンピオンになったこともあるんだぜ? レースで賞金を稼いで、潜水艇につぎ込んだってわけなんだよ」

 アランが自分のことのように得意げに言った。こいつ、順応性が高い。もう、私の存在は気にならなくなったらしい。

「もう、レースはやらないんですか?」

「ああ。今レースに出ているのは、こいつらみたいな若い奴らばかりさ。それに……」

 言葉を切った爺さんの顔を若者たちが遠慮がちに見た。そんな空気を打ち消すように、爺さんは陽気に言った。

「どうだい、これからこいつらとUドームに行く。今年の単車レースの予選があるんだ。あんたも行くかい?」

「レース? それは素敵です。是非、連れて行ってください。タンベレさんの様子は見て来たし、午後は空いているんです」

 ハルタン治安部がこだわる天使の映像を見せてもらおうという下心もあったが、レースに興味が湧いたのも確かだ。だが、爺さんの方は怪訝な顔をした。

「おい、アロの様子を見るって……どこか悪いのか?」

「言い忘れていましたわ。今、入院中です」

「しかし、別れた時は何も変わったことはなかったぞ?」

「実は……昨夜ラスキングさんのマンションから自宅に戻る途中、人だかりがしていました。エアカーを降りてみてみると、タンベレさんが救護班に運ばれているところだったのです」

「何があった?」

「電磁ナイフで刺されて……入院は一週間ほどになりますわ」

「アロも、俺も……こりゃあ、偶然か?」

「さあ、警察の方では、薬物中毒の男の仕業だと言っています」

「なんてこった、とんだ災難だ」

「ロリー爺、何の話だ?」

「深刻な話なの?」

 アランとジャンが割り込んだ。

「ロリー爺、さっき言っていた恐ろしい目に合ったって話をしてもらえませんか?」

 マックが迫った。

「なあ、言ってくれよ」

 アランが繰り返す。爺さんはため息をつき、シャツを脱いだ。

「こういうことだ」

 脇腹にはあざが、そして背中には裂けた傷に沿ってまだらの跡がある。

「ひどい」

 ジャンが身震いした。

「どこのどいつだよ、こんな真似しやがったのは」

 マックが目を見張り、アランが叫んだ。

「探し出して仕返ししてやる」

「ロリー爺」

 ジャンが涙ぐむ。

「わけがわからないうちにやられたんだ。もちろん、相手は知らない顔だった」

 若者三人を宥めるように爺さんは答えた。

「こんなことが起こるなんて。ハルタンの治安は、レンに次ぐと言われているのに」

 傷を見つめるマックに、私は言った。

「その安全なはずのハルタンで、昨夜ラスキングさんが襲われ、同じような時間帯にもう一人電磁ナイフで刺されたんです」

 若者三人が顔を見合わせた。


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