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「ロリー爺、片づけが済んだよ。さあ、Uドームへ行こうぜ?」
さっきのアランが飛ぶように駆けて来た。が、爺さんの潜水艇の裏から表に回った私を見て、その足が止まった。
「ロリー爺、その人は?」
アランはうさん臭そうに私を上から下まで眺めた。どうも礼儀がなっていないようだ。爺さんが申し訳なさそうに私を見て言った。
「セシル・フレミングさんだ。昨日は恐ろしい目に合っていたところを助けてもらったんだ」
「ロリー爺が恐ろしい目にだって? 何があったんだ? 教えてくれよ」
アランが真剣な顔になった。
傍にいたマックと小柄な若者も心配そうに爺さんを見つめている。
「話せば長くなるんでな」
爺さんはウィンクした。
「これからこの人に潜水艇を見せるから先に行っていろ」
「こんな人に船を見せるのか?」
若者たちは再び私を見、呆れたような顔をして互いをつつき合っている。余計なお世話である。私は呆れ顔の三人を残して爺さんの潜水艇に乗り込んだ。若者たちが覗き込む。
「外観も立派だったが、これはなかなかの趣味ですね」
衛生部の巡視船に比べれば小型かもしれないが、よくできていた。まずはその収納だ。遠隔操作用アーム、回収物収納用ボックス、非常用ライト、クッション代わりになる毛布、工具……もちろん音波探知機、GPSなど探査機としての機能も充実している。
「デッドスペースがない。うまく利用されていますね」
私は感心して言った。潜水艇の良しあしはその性能と安全性だが、居住性も馬鹿にならない。無駄なスペースなどあってはならないものなのだ。
「まあな、知り合いに船の設計士がいる。奴からいろいろ聞いて俺なりに工夫したんだよ。ここでしばらく暮らすこともできる。これで長旅も可能だ」
「それに、この機器……」
私は年代も様々、つぎはぎで不格好ではあるが、必要な(時に必要以上の)精密機器がきちんと揃っている船内を見た。それだけではない。普通の巡視船レベルでは使われないような高価なモニター。そして、一台で済むはずの電脳に加えて、もう一台別の電脳が繋いである。
「これは?」
「目ざといなあ」
「サブ、または独立したものに見えますが?」
私は二台目の電脳を見て言った。
「その通り。いざという時は、切り替えて使える」
爺さんは大真面目だ。
「戦闘用ならまだしも、巡視船には必要ないでしょう。いざという時は脱出用カプセルを使えばいいのですから」
「だが、取り付けてみたいものは取り付ける。それが趣味というものだ。おい、アラン、勝手にいじるなよ」
「ちょっと触っただけだよ。いいでしょう?」
身をかがめて潜水艇に乗り込んできたアランは口をとがらせた。
「後ろにあるのは?」
「俺の……脱出用カプセル」
「ロリー爺、そんなこと言うなよ」
マックが言った。
「そうじゃないか。もう、そんなことにしか使わないんだから」
「それなら俺が乗ってやる」
アランがここぞとばかりに言った。
「俺だって」
小さい声が続く。
「お前じゃ、まだまだだ、ジャン」
マックが笑う。
「そんなこと言って、いつになったらいいんだい?」
むきになったジャンにアランが答えた。
「お前は生まれ変わって出直して来い」
「ちぇっ、言ったな」
ぶつかり合いはしても、彼らは同じものを持った気の置けない仲間同士のようだった。そんな彼らの軽口を聞きながら、私の目は爺さんの単車に吸い寄せられた。




