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「おい」
メカニックが声をかけた。
「しまった。もう、こんな時間だ」
警備員は慌てて走り出した。潜水艇用のゲートが開き、衛生部の巡視船と外部委託の潜水艇が戻って来る。衛生部の巡視艇はサイズもデザインも似ていて区別がつかない。大きさは六人から八人乗りだが、降りてくる職員を見ていると、大概が三人、ひとりが主で、あとの二人は助手のようだ。助手たちが荷を下ろしている。六から八人乗りとはいえ、船の余ったスペースは救命用のカプセルと職員の荷物、収納した回収物、それと備品でほぼいっぱいだろうと思われる。
外部委託の潜水艇の数は衛生部の巡視艇の倍はあるだろうか? こちらは色もデザインも大きさも様々だ。ほぼ単車と変わらないような大きさのものから、衛生部の巡視艇を上回る大きさのものもある。色も思い思いで鮮やかだ。デザインは、よく見かける普及型潜水艇から、サメのような魚型、亀を思わせるドーム型まである。無理をしたデザインのものは水の抵抗が大きくなる分、推進力を生み出す噴気孔が目立つ。それでもその形にこだわっている。
「これは楽しい」
警備員の後を追って私もゲートに近づいた。
「ロリー爺の船はあの赤いのですよ」
「ロリー爺?」
「実は、私も若い頃単車のことでさんざんにお世話になった口なんです」
警備員はくすぐったそうな笑みを浮かべた。爺さんの潜水艇はこの中では小型の方だった。コックピットは全て透明のドーム型、座席は前に二つ、後ろに一つか二つだろう。二本の推進エンジンの上に赤い船体が載っており、黒の骨格が引き締めている。それに、緑色の錨のマーク。(潜水艇なのだが、爺さんは古代の船が使っていた錨を自分の船の目印としていた)爺さんの潜水艇には機能性を重視した結果の美しさがある。
「おお、こりゃあ、セシルさんじゃないか」
潜水艇から降りた爺さんが目を丸くした。爺さんに助手はいない。一人だった。家で手当てをしたのだろう。昨夜殴られてできた顔のあざは薄くなり、爺さんはそれをクリームで上手く隠していた。
「体の方は大丈夫ですか?」
聞いた私に、爺さんは余裕の笑みを浮かべた。
「心配をかけてしまったのかな?」
「まあ……それに、ご自慢の潜水艇を見せてもらいたいと思って」
「そりゃあ、光栄なことだ。さあさあ、どこからでも見てくれ。気が済んだら中に乗ってくれ。説明するよ」
「ありがとう」
私は潜水艇の後ろの方へ回った。
「ロリー爺、これからUドームに来てくれるんだろう? 後で俺のを見てくれないか?」
爺さんに話しかける弾むような声が聞こえた。先に着いた船から降りて爺さんを待っていたらしい。見れば、少年と青年の間、二十歳そこそこの若者だ。作業服を適当に着ている。髪は長めで、整った顔立ち。生意気そうだ。
「アラン、ちゃんと片づけをしてからだ」
船の主が怒鳴った。見習いらしい。
「はい、すぐにやります」
アランが答える。
「早く行け」
爺さんも言った。
「片づけたら、すぐ来る」
「わかった、手を抜くなよ」
爺さんの声が追う。
「あの、ロリー爺、俺のも見てくれませんか? どうも調子が今一つで」
こちらもさっきのアランと大して変わらない歳の若者だった。背が高く、黒っぽい髪をきちんと刈り込んで、服装もちゃんとしている。
「わかった、見てやろう。俺の作業をよく見ておくんだぞ、マック」
マックというのか。顔が輝いている。
「俺の、もうちょっとスピードが出ないかなあ」
遠慮がちな声がした。
「スピードを出すのはいいが、バランスを取るのが難しい。お前にとってはスムーズなレスポンスは難題だろうが」
爺さんは痩せて小柄な若者に言った。
「ロリーさん、今度のレースは俺がいただくぜ?」
「おうおう、元気のいいこった」
「いい単車を手に入れたんだ」
「レースは乗り手次第さ」
「まあ、見ていてくれよ」
「壊して泣くなよ」
脇を通り過ぎる若者たちが次々と爺さんに声をかけ、爺さんの方も生き生きと答えている。




