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その足で情報管理室を訪ねる。
「すみません、昨日お邪魔したY&Kのセシル・フレミングですが、お聞きしたいことがあって……」
「ああ、セシル、よかったわ、来てくれて」
ローラ・マイスキーがデスクから立ち上がって、転がるようにやって来た。
「あなた、タンベレさんが刺された時に居合わせたんですって?」
「その時に居合わせたわけじゃないんです。乗っていたエアカーが一時停止させられたんです。人だかりがしていたので降りて様子を見てみたら、タンベレさんが運ばれていくところで……」
「刺されたんだって聞いたわ。ああ、刺されたなんて」
「ええ、驚きましたわ。担当医は一週間ほどで仕事に復帰できると言っています。本人はもっと早く戻るつもりでしたよ。ここに来る前に病院へ寄ってみたのです」
「まあ、セシル、あなたっていい人ね」
「いいえ、そんなことは……」
「そうよ。さあ、お茶でも飲んでいらっしゃいな」
ローラは大袈裟に手を広げた。
「はあ、ありがとうございます。ところで、タンベレさんが刺されたことを誰からお聞きになったんです?」
「部長よ。今朝ここに寄ってそんな話をしてたの。いつものように、また会議の方に行ってしまったけど」
「会議?」
「最高会議のことよ。ゼフィロウにもあるでしょ?」
「はい。でも、いつものようにって……そんなに最高会議って開かれるものなんですか?」
「まあ、ね」
ローラは肩をすくめた。
「そうでなくとも部長はほとんどここにいないんですよ」
近くの職員が座ったままこっちを向いて言った。
「では、普段はどこにいらっしゃるのですか?」
「さあ、大抵はどこかの部長のところです。他の部署でも似たようなものですね」
「確かに各部署と話が通りやすい、というメリットがありますね」
「俺たちがやりやすいというメリットもね」
部屋に楽しげな笑いが広がる。
(治安部の大部屋とはずいぶん違う)
ローラに呼ばれて休憩室に入る。明るいテーブルクロス、花、カットガラスのポットには色とりどりのキャンディー。ここも警察部の休憩室とは雰囲気が違う。ローラはピンクや赤の花々が描かれた派手なカップにお茶を入れて来てくれた。
「甘いものもどうぞ。お好きなものを取ってね」
カットガラスのポットを開ける。
私は椅子の一つに座ってお茶をいただいた。
「タンベレさんったら、つくづく運が悪い。気の毒だわ」
「何故そんなことになったのかわからないのですが」
私も頷く。
「薬物中毒患者の仕業って聞いたわ」
ローラは顔をしかめた。
「で、聞きたいことがあるってお話でしたね。何ですか?」
「衛生部のロリー・ラスキングさんは、今日仕事に出ましたか? ラスキングさんは自前の潜水艇で巡視をしているそうですが。今日のスケジュールはどうなっています?」
「ああ、ロリー? どうだったかしら? ちょっと待ってちょうだいね」
ローラは休憩室の入り口で叫んだ。
「誰か今日のロリーのスケジュールわかるかしら?」
「お待ちください。ええと、今日は朝から仕事が入っています。が、午後はフリーですよ」
すぐに、返事が返ってきた。
「ということですわ」
「そうですか。ありがとうございます」
「だけど、どうしてロリーのスケジュールなんかお聞きになるんです?」
「ラスキングさん自慢の潜水艇を見せてもらおうと思って。ああ、昨日タンベレさんにラスキングさんを紹介してもらったのです。その潜水艇で巡視を行っているんですよね? どこへ行ったら見られますか?」
「P5よ。衛生部の巡視船専用のポートだけど、ロリーのように自家用の潜水艇を使って業務をこなす委託業者もそのポートを使っているの」
「P5?」
「ええ。P1はハルタンの最大のポートで一般の人が使います。あなたがハルタンに来たときに使ったポートですよ。普通の物資もそこで扱われるわ。P2がハルタン領主専用。P3が緊急医療用、P4が治安部用、P5が衛生部の巡視船用、P6が治安部と衛生部以外の潜水艇用、P 7が建設資材等大型物資専用となっているの」
「ありがとうございます。では。P5で待っていればラスキングさんにお会いできますね? どうもありがとうございます、マイスキー副室長」
「ローラでいいわよ」
ローラは気さくに笑った。私は再びローラに感謝し、私たちは休憩室を出た。
「ロリーは正午までには戻るわ。でも、潜水艇だなんて」
「乗り物は何でも好きなのです。楽しみですわ」
「まあ……」
ローラは口を開けた。
「変わった人が来たもんだ」
ローラの言葉にならなかった言葉は、聞いていた職員が代弁したようだった。




