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「あれは……俺のちっぽけなプライドのせいなんだ。何せ、後からやってくる後輩が次々に出世していくのに、俺だけは相変わらずここで見習い同様の仕事だから」

「謝るほどのことではないじゃないですか」

 私の言葉など聞こえなかったかのように、タンベレは続けた。

「俺たちはハルタンの治安部に所属しているが、レンの研修生だ。難関と言われるレンの上級職員採用試験に合格した者は、いくつかの核で経験を積み、そこで実力を認められて、晴れてレンに戻るんだ。実力を認められて……とは言うものの、大方は短期で上司に合格をもらい、次の核へと移動していく。こうしていくつかの核で経験を積むんだ。後輩だったキースも順調にその路線をたどっているというわけだ」

 タンベレは一息ついた。

「大志に燃えて、とまでは言い難いが、試験に合格して俺は希望通り、治安部に配属された。だが、順調だったのはここまで。俺にはいつまでたっても上司のOKは出ない。最初は俺も、こんなこともあるさ、と思っていた。今まで苦労もせずにここまで来てしまったのだから、と。それにしても……」

 苦い思いを飲み込むように黙り込む。

「俺は要領が悪い。それで、秘書官の一人から睨まれた。事あるごとに嫌味を言っていた上司が退き、新しい上司がやって来たが、何が変わるわけでもない。それどころか、マイト課長は事あるごとに俺を呼び出し、こまごまと文句を言うのだ。好意的に見られているとは思えない。このままでは、それ見たことかと親に呆れられて、父親の商売を継がされる羽目になりかねないな」

「それではいけませんか?」

「ああ、幼い頃からそれはまずいと思っていたんだ。俺の父親は商業で突出している核ニエドで、そこそこ成功しているが、目端の利かない自分に父のまねができるとは到底思えない。だから、ニエドから離れて、レンで働こうと決めたのに……あ、フレミングさん、ずいぶん余計なことまで話してしまった」

 そんな言葉とは裏腹に、タンベレはすっきりした顔で笑った。

「たまたま運が悪かっただけですわ。それも、ずっと悪いままなんてありえませんから、ゆっくり構えていらっしゃいな」

「ありがとう、セシルさん。そう呼んでよろしければ」

「もちろんです」

「まだ、お話は終わらない?」

 ナオミが顔を出した。

「ああ、セシルさんはお帰りになる。ナオミもそろそろ帰った方がいい」

 ナオミは目を丸くした。フレミングからセシルへ、タンベレが私の呼び方を変えたことに鋭く気付いたのだ。

「私はまだいるわ」

「いいや、俺は少し眠るよ」

 患者にそう言われてしまえば、おしまいだ。

「わかったわ、明日また来る」

 ナオミは名残惜しそうに言って、私と一緒に病室を出た。そっと出て行くナオミの姿をタンベレがこっそり見ている。タンベレはナオミのことが好きなのだとわかった。どうせ、そのことは本人には一言も伝えていないだろうが。彼女が治安部の秘書官だった父親を持っているから、というだけではないだろう。上司から無能扱いされ、出世の街道を大きく外れていると思い込んでいるタンベレは、気後れしているのだ。まったく、あれだけ熱烈に愛情表現をされているというのに。

「そろそろ麻酔が切れて、傷が痛みだす頃だわ」

 黙って隣を歩いていたナオミがぽつりと言った。


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