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 翌日、私は改めてアロ・タンベレを見舞った。白くて広い廊下。個室と談話スペース、そしてリハビリ施設が目を引く。タンベレの部屋は昨夜と同じ、廊下の突き当りのリハビリ施設の手前だった。

 病室のドアにセシルの思念を送った。

 ドアが開く。

「フレミングさん、連日すみません。もう、かなりいいんですよ」

 私を見たタンベレは、柔らかく鎮痛剤の残り香のする部屋で身を起こそうとした。

「それはよかった」

 こう答えながら、私は部屋の変貌ぶりに目を見張った。先に見舞いに来ていたナオミはタンベレが身を起こすのを手助けしていたが、私の様子に気づいてにっこりした。

「殺風景だったから。少しは気持ちが明るくなるかと思って」

 無機質だった病室には色とりどりの花が飾られ、簡易テーブルには鮮やかなグリーンのテーブルクロス、そして赤くてかわいい椅子が(たぶん自分用なのだろう)ちゃっかりと置かれている。

「すぐに退院するつもりでいるのに」

 タンベレは苦笑していた。

「ちゃんと治ってからじゃなくちゃダメよ。それにしても……アロが刺されるなんて、刺されるなんて信じられない。治安部だから? そんなことはないって父は言っていたけれど。私、話を聞いてからアロを見るまで、生きた心地がしなかったわ」

 ナオミの方は恋人気取りである。というか、すでにしっかり者の奥方か。

「で、実際傷の方は?」

「もう塞がっていますよ。後は組織が自然に回復するのを待つだけだ。だからここにいても仕方がない。いつでも仕事に戻れます」

 刺されたことに対するショックは、少なくとも表面上は、感じられない。ナオミは顔をしかめていたが、私は気づかないふりで続けた。

「犯人について、警察は何か言っていましたか?」

「薬の……中毒患者だったと言っていました」

「捕まったのですか?」

「はい。でも、意識が混濁していて、誰も面会できないそうです。犯人は薬剤のショックで命を落とす危険があると、朝やって来た警官は言っていましたよ。ハルタンでは……こういうことがあるのですよ。多分、他の核よりもずっと多い。医療関係者、薬品開発に従事する人たち、彼らは容易に麻薬効果のある常習性の薬品に近づけます」

 タンベレの顔がわずかに曇った。

「タンベレさん、刺された時、犯人の様子はどうだったんです?」

「ねえ、セシルさん、アロはよくなったとはいえ、大けがだったのよ。今はまだ無理に思い出すこともないじゃないの」

 ナオミは怖い顔をした。こうなると、かわいい息子を守る母親である。

「いいんだ、ナオミ。俺も気になったんだよ。俺には、犯人はとてもまともに見えた。人を刺すことに躊躇しない人間がまともかどうかは別としてね」

「刺した当時はまともだった。が、今は死に瀕している?」

「目を見ればわかる。あれは冷静な目だった」

 タンベレはわけがわからなくなったのか、目をつぶった。

「セシルさん」

 ナオミが睨んだ。

「わかりました。順調に回復されているようで何よりですわ。私はこれで」

 ふと、タンベレが目を開けた。

「フレミングさん。ちょっとだけ。ナオミ、外してもらえないかな?」

「どうして?」

「いいから」

 しぶしぶナオミが出て行くと、タンベレは言った。

「あの時のこと謝ろうと思って」

「あの時? 何のことです?」

「リノで、失礼なことを言ってしまった」

「『あなたには関係のないことだ』?」

「はい」

 感じやすそうな顔をしてタンベレは頷いた。


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