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「ラスキングさん、送りましょう。エアカーを待たせています。病院に行きますか?」

 私は声をかけた。

「いいや、家へ頼む。近くなんだ」

「痛みませんか? 手を貸しましょう」

「このくらい、大丈夫だ」

 待たせていたエアカーに爺さんを乗せると、私は離れたところで見守る総領事館の男たちに軽く会釈して爺さんの隣に乗り込んだ。

 エアカーが爺さんの自宅に向かう。爺さんを家に送るという目的は叶った。おかしな奴らも釣れた……

「ラスキングさん、あの二人、どうしてあんなことを?」

「さあ、俺にもさっぱりわからない」

「忠告がなんとか言っていましたね?」

「ああ、そうだった、俺に天使を見たなんて言うなっていうんだ。ちぇっ、余計なお世話だってんだ」

「そんなことで?」

「ああ、わけがわからん」

 エアカーが爺さんの自宅前に止まった。意外にも、古くて格式のあるマンションだ。

「ちょっと寄って行くかい?」

 爺さんがいたずらっぽく笑った。それもいいが、この傷だ。明日に改めよう。

「いいえ、止めておきます」

 私は常識を優先させ、もっともらしく答えてマンションに入って行く爺さんを見届けた。不審な者がいないか、一応エアカーを降りて確認する。大丈夫だ。

「あの二人は?」

 胸のブローチ型通信装置に向かって聞いた。

「無理に追えば、こちらが疑われる状況になったようです」

「それで?」

「二人と彼らの乗ったエアカーの映像は十分得られましたので、調べようがあるかと」

「頼む」

「わかりました」

「で、地元の警察ではなく、何故お前たちが来たのだ?」

「それが、彼らに通報しても動く様子がなかったのです。あなたに万一のことがあってはと、取り急ぎ駆け付けたのですが」

「そうか、助かった。ありがとう」

「そんな、とんでもない。しかし、ハルタンは、とりわけ安全な核だと言われているのに……通報があったにもかかわらず、警察が動かないとは」

「うん、治安部の、誰かの息がかかっているかもしれないな。ひょっとしたら、あいつらも……」

「そうですね」

 一方で、爺さんが見た天使の情報を欲しがり、また一方では、爺さんを脅して他言させないようにする。天使、とは何だ?

「ラビスミーナ様?」

「ああ、なんでもない。また」

「はい」

 通信を切る。あの鞭は皮膚の表面の神経を刺激して強い痛みを与えるものだ。ハルタンらしい武器だ……おっと、変なところで感心してしまった。そんなことより、明日はなるべく早く爺さんの映像を調べるとしよう。ぐずぐずしてはいられないはずだ。

 エアカーの行先をシャーム通りの自宅に設定した。真夜中だが、通りにエアカーの動きはある。ある者は遅い仕事の帰り、ある者は夜を楽しんでいる。

 間もなくエアカーが止まった。一時停止の指示だ。道端に人だかりがしていた。何だ? 徐行し始めたエアカーから見ると、救急車が来ている。

「ひどい血だぞ」

「まだ生きている」

 どうやら救急車は来たばかりらしい。エアカーを移動させて裏通りで待たせ、人だかりに混じった。人垣から覗けば、救命士が男を担架に乗せている。

(何だと……)

「タンベレさん? タンベレさんじゃないですか」

 私は声を上げた。


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