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 どうやら、たちの悪い奴らに目をつけられたようだ……ロリー・ラスキングは不運を呪い、自分を引っ張り込んだ男たちを睨んだ。二人組。どちらも体格がよく、こんなことをするのに慣れているように見える。

「いったい何の用だ? 何のつもりか知らないが、すぐに警察に見つかるぞ? ハルタンでは、市民の安全のため、隅々まで監視が行き届いているのを知らないはずはなかろう?」

「さあて、どうかな。そんなことより、俺たちがちょっと小耳に挟んだところによると、あんた潜水艇でパトロール中に天使を見たんだって?」

「それがどうした?」

「いい加減なことを言うな」

「俺はな、くだらないことを言う奴を見ると腹が立つんだ。痛い目にあいたくなければ、その口をつぐむんだな」

 二人の男が言った。

「お前らに指図される覚えはない」

 酒の力もあって、ラスキングは気が大きくなっていた。そんなラスキングを片方が押さえつけると、もう片方がその顔を殴りつけた。うずくまったラスキングが顔を上げるか上げないうちに、今度は腹を蹴りあげる。ラスキングは息がつまり、立ち上がれなかった。男たちはただの乱暴な酔っ払いには見えなかった。

(このままではまずい)

 ラスキングは思った。思った瞬間、ラスキングの背中に激痛が走る。目を見開いたラスキングの目に入ったのは、細い針がびっしりとついたしなやかな鞭だった。

(神経鞭だ。この痛み、気を失う方がましだ。何て奴らだ)

「わかっただろう。それとも、もう少しこの味を試してみるか?」

 そう言った男の手の鞭がまた撓った。再び背中を引き裂くような痛みが這う。

「畜生」

 ラスキングは思わず呻いた。

「まだ、わからないか」

「そのようだな」

 歯を食いしばるラスキングを二人の男が見下ろしている。


 大通りに人はいるが、路地は人影がなかった。いや、影がある。動いている。私はその細い路地を覗いた。そこにいたのは、あの爺さんと二人の男。店にいてこちらを窺っていた男たちだ。私は胸のブローチに囁いた。

「ラビスミーナだ。すぐに地元の警察に連絡して人を回してくれ。爺さんがたちの悪い男二人に絡まれていると言うんだ。場所? 私の居場所を逆探知しろ。くれぐれもゼフィロウが絡んでいるとは知られるな」

 ハルタンにあるゼフィロウの総領事館に救援を求め、私はラスキングに近づいた。

「セシル、逃げろ」

 私に気付いた爺さんが呻いた。

「ラスキングさん、どうしたんです?」

 無視して近づく私を二人の男が興ざめしたように見た。

「ちっ、こいつと一緒に店にいた、みっともない女か」

 失礼な奴だ。が、ここで疑われるわけにはいかない。

「そんなこと言ったって。何事ですの?」

 私は震える声でさらに爺さんに近づいた。

「見ての通りだ。余計なことを言うとこんな目に合うんだぜ?」

 男が私の腕を押さえ、もう一人が鞭を振り上げた。そうはいくか。抑えられた腕をひねる。相手の腕が不自然に曲がった。

「うぐっ」

 私を押さえた男は呻いた。もう一人の男が私に向かって鞭を振う。悪いが呻く男を盾にした。振るった鞭が男に当たる。

「ぎゃあっ」

 私に腕をひねり上げられ苦痛で呻いていた男が、今度は背中を鞭うたれて悲鳴を上げた。

「こいつ、ただの女じゃないのか?」

 鞭を持った男が苛々して私を見た。

「今のは、まぐれですわ」

 戸惑ったふりで私は身をすくめた。この調子でどこまで通用するか、自信がない。ハルタンの警察は優秀だ。もう駆け付けてもいいと思うのだが、来ない。


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