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自分の核に対して強大な発言権を持つ領主を支え、意見し、問題の解決に当たる最高会議。最高会議には主な行政部のトップが籍を置く。彼らはセジュの実力者だ。
私がその会議に顔を出すのは、これで二度目。若輩者で、大した実績もない私の後ろ盾と言えば、父である現ゼフィロウ領主エア・ファマシュだが、もう一人の私の力強い後ろ盾は、前治安部長のシオ・ヴァルネだった。シオはかつて二十歳そこそこの娘(私のことだ)に治安部を任せるというゼフィロウ中が目を回すようなことを提案し、それを実行に移した。いくら私が領主の娘(養女だが)だとはいえ、無謀だと誰もが思う。それほどまでに、領主に取り入りたいのかと陰で囁かれもした。だが、シオは気にもしなかった。そういえば、父エアが地上人の女を助け、妻にすると言い出した時、真っ先に彼女に会い、賛意を示したのはシオだった。温厚でありながら、その内面には確固たるものを持つゼフィロウの重鎮の一人。父にチェスを教えたのはシオだと聞いた。当時の領主、祖父のゲオ・ファマシュの側近だったシオは、変わり者と聞くゲオの一人息子エアに興味を持ったらしく、二つ返事で父エアのチェスの相手を引き受けたそうだ。そして、間もなく父の忍耐強さと勝負強さに打たれ、それ以来、更にファマシュ家とのかかわりを深めることになる。
その父が今度はまたシオに言ったそうだ。
「どうだ、シオ、私の自慢の娘とチェスをしてみないか?」と。
「どうですかな? 私もそろそろ引退してのんびり過ごすことを考えてもいい年齢です。お嬢様とチェスをしてみたところで……」
シオはやんわり断った。シオとしては、十代の私がゼフィロウの行政の真っただ中に立つのはまだまだ先だと思っただろうし、そもそもゼフィロウの中心に立つかどうかも分からないと思ったのだろう。資質がないならどこかに嫁ぐか、社交に明け暮れるか、その方が住民のためだ。
「ふん、あなたがそう考えるならば構わないが……」
父は言ったそうだ。その時の父の顔は十分想像できる。人に、どこか自分の判断には間違いがあるのではないかと思わせるような、あの澄ました顔だ。チェスの腕前では父と互角だったシオも、あの顔に引っかかって、つい私とチェスをする羽目になったのだ。
私はシオの屋敷を訪れた。多くの住民が便利で洒落た集合住宅で暮らしているが、中には(おもに裕福層と呼ばれる者たちだが)屋敷を構える者もいる。シオの屋敷はゼフィロウの中心から少し離れた木々の間にあった。地上を去り、海底のドームの中で暮らす私たちも、その好みは地上で暮らしていた頃とそう変わってはいないらしい。祖先は地上から多くの種子をここセジュに持ち込み、農業の核ケペラでなくとも、娯楽の核ネストでなくとも、人々は緑を楽しんでいる。ゼフィロウの城も見事な大木に囲まれ、おかげで城は町の喧騒から隔てられて、静寂そのものだ。エアカーを止め、正面入り口まで歩く。入り口の古めかしい扉の前でシオは私を待っていた。




