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「少なくともスタイルはいいのではないかな?」

 嗄れ声のロリーが私の肩を持った。

「顔は……化粧が厚い」

「慣れてないんだろう」

「あの歳で?」

 苦笑いしていたタンベレが戸惑いの表情を浮かべた。二人が話題にしている女(私)が、まっすぐ二人の座るテーブルに向かっているのだ。

「お、おい?」

 タンベレをつつくロリーの前で、私はぎこちなく微笑んだ。白髪のロリーは六十代中ごろといったところだろうか。爺さんには変わりないが、どこか若々しいところがある。

「アロ・タンベレさんですね? こちらにいらっしゃると聞いて寄ってみたのです」

「あの、どなたですか?」

「ああ、申し遅れましたわ。私はY&Kネットのセシル・フレミングです。ここハルタン治安部の電脳のメンテナンスと、いくつかの提案を持ってゼフィロウから来ましたの。よろしくお願い致します」

 ここでプシュッと音がしてイヤホンからの音はなくなった。

「おや、まあ、噂をすればなんとやら、だ」

 ロリー爺さんは笑い出した。

「噂?」

 白々しく私は聞いた。

「たった今、こいつにY&Kネットから派遣された社員の面倒、いや、お世話をするといった話を聞いたところなんだが……いや、まさかその当人とここで会えるとは思わなかったね」

「そうですか」

 ちょっと恐縮してみた。そんな私に爺さんは首を振る。

「俺はロリー・ラスキングという。俺の潜水艇でこのハルタンの周辺を見まわるのが仕事さ」

「巡視船の船長?」

「ああ。とは言っても、乗組員は俺一人だが。船は小さいがちょっとしたもんだぞ」

「それは大したものですね」

 つい身を乗り出してしまいそうになるの自分を何とか抑えた。タンベレは私をまじまじと見ている。

「それにしても……」

「何ですか?」

 顔を見ているところからすると、まだ化粧のことか。

「いいえ、別に」

「お仲間の送別会だったのですね。異動されるのはあの方ですか?」

「悪いが……あなたには関係のないことだ」

 思いがけず、きつい声だった。

「アロ」

 ロリー・ラスキングが宥めた。

「ああ、つい……」

 口ごもるタンベレに声がかかった。

「アロ」

 明るい声だ。

「おうおう、こっちもまた」

 ロリー・ラスキングは声を上げた。ふんわりした、とりどりの色のワンピースはバルーンのようだ。ふっくらとした顔には、その声と同様、明るい表情が浮かんでいる。大きな瞳、ピンクのチーク、濃いピンクの口紅。個性的に結い上げた長い髪にも、鮮やかな色のリボンが編みこまれている。人のことを言えた義理ではないが、目立つこと、この上ない。

「ナオミ」

 私の化粧が気になるタンベレのことだ。これだけ目立てばどうなることかと思ったが、タンベレは柔らかく微笑んでいた。

「ロリーさん、こんばんは。ちょっとアロをお借りしていいかしら?」

 彼女は言った。

「どうぞ、どうぞ。アロだって俺なんかより、あんたみたいな子と一緒に過ごす方が楽しいに決まっている。ほら、アロ、遠慮なく行って来い。俺は、もう一杯飲んだら帰るから」

「ありがとう」

 顔中に笑みを浮かべてタンベレを引っ張って行こうとした彼女だったが、ふと、ひっそりと座っていた女(私)に目を止めた。

「どなた?」

 顔には相変わらず笑みを浮かべながらも、その目は鋭く私を品定めしている。

「セシル・フレミングです。治安部の電脳のメンテナンスと、新システム提案の件でゼフィロウから来ました」

 その場に不似合いな硬い感じだったと思うが、ナオミは気にする様子もなかった。

「あら、そうだったの。私はナオミ・ハマリ、宜しくお願い致します」

「ハマリ?」

 私は聞いた。

「ええ」

「お父様はアール・ハマリ氏ですか?」

「父をご存じなの?」

「お名前だけ。ご立派な方だと」

「そうですか。ありがとうございます」

 ナオミは改まって頭を下げた。タンベレが誇らしそうにナオミを見、爺さんが笑った。

「こんなところは育ちの良さが出る。さすがはお嬢様だ」

「よしてよ、ロリーさん」

 ナオミは、またタンベレを引っ張った。

「じゃ、セシルさん、何かお役にたてることがあったら、どうぞ遠慮なく仰ってください」

 どこかきまり悪そうに言って、アロ・タンベレは立ち上がった。

「お願いいたします」

 私は答えた。はしゃぐナオミに引っ張られるようにしていくタンベレ。二人を目で追っていた私は、テーブルに視線を戻した。ロリー・ラスキングか。これが、ハルタン治安部の上層部がタンベレに詳しい報告を求めた、その情報元ってわけだ。さて、彼らは何を知りたい? 


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