表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/118

24

 私は携帯型の電脳をバッグから出してY&Kネットの細かいデータを並べたページを開いて営業社員らしい雰囲気を整えた。花形のブローチに手を当て思念を送り、総領事館の電脳に呼びかける。(これは私自身の思念だ)

「ラビスミーナ様、お話の前に、まず、お知らせしなければならないことがあります。よろしいですか?」

 総領事マルトが言った。

「何だ?」

「エア様にもお知らせしたのですが、ハニヤス・レンバ氏の姿が見えないのです」

「詳しく頼む」

「はい、エア様から命を受け、ハニヤス・レンバ氏の身の安全を図るため総領事館の職員がレンバ氏の屋敷に入っているのですが、彼らの報告よると、自室にいらっしゃったレンバ氏が、昼にはその姿を消してしまったというのです」

「まさか……ハルタンの治安部に拉致された?」

 私は声を落とした。

「いいえ、それはありません。そのような気配があれば、我々の職員が気づくはずです。それにハルタンの治安部が慌ててレンバ氏を探しまわっているのです」

「ハニヤスの行動は昨日までは変わったところはなかったのだな?」

「はい。昨日も甥のケン・カップ氏がその友人とともにやってきました。カップ氏はレンバ邸に頻繁に出入しているのです。レンバ氏は彼らと和やかに夕食を済ませ、ゆっくりされていたようなのですが、今朝は自室から出ていらっしゃらない。通いの業者が昼食の支度を済ませ、声をかけたのですが、それでもレンバ氏は出て来ませんでした。不審に思った職員がレンバ氏の自室や書斎を調べましたが、しんと静まり返っていて人の気配がない。屋敷中を探しましたが、どこにもレンバ氏の姿はなかったそうです」

「だが、ハニヤスは外出しなかったのだろう?」

「お待たせしました」

 ジュースが届いた。

 電脳画面が自動でスクロールされている。私はその画面からスタッフの女性に目をやった。彼女は邪魔にならないよう気を配りながら、

「何かありましたら、お呼びください」

 とだけ言って、戻って行った。

 ストローを取って一口飲む。ハルタンで人気のジュース、ツルモフだ。若さを保ち、ストレスを軽減させると言う。(飲み続ければの話だ)効能はともかく、爽やかで美味しい。

 ハニヤス……気がかりではあるが、治安部に拉致されていない限り、ハニヤスは大丈夫だ。私はジュースを飲みながら、作業に戻った。

「マルト、ハニヤスはああ見えて身軽だ。どこかに外に通じる通路があるのかもしれないな」

「恐らく」

「そういえば、ハニヤスの屋敷の様子は? すぐに住めるようなものだったのか?」

「ええ、定期的に手が入っていました。ゼフィロウから二十年近くも出なかった人物の屋敷とは思えないほどだったそうです」

「屋敷の管理をしていたのは?」

「甥のカップ氏です。レンバ氏とは連絡を取り合っていたようです」

「うん。カップは研究者だったな?」

「はい。ハルタンでは珍しい藻類の研究家です。こちらでは評価されていません。むしろ、論文は農業核ケペラで評価が高いのです」

「藻類の、どんな研究なんだろう?」

「基礎研究の分野です。生態と分布、いくつか新種の報告があるようです」

「なるほど。で、もちろんハニヤスはカップやその仲間の家にはいないのだな?」

「はい」

「ハニヤスめ、どこに行ったのやら……マルト、引き続きハニヤスの居所を探してくれ。カップのデータも送って欲しい」

「わかりました」

「ところで、ヨーク・ローツとハルタンの関係については?」

「仕事上は、特にはありません。個人的にはローツは腸の疾患でハルタンの医療施設を訪れたことがありますが、それも一度だけです。しかし……」

「しかし?」

「母親がしばらくこちらで療養生活を送っています」

「どこが悪いのだ?」

「心不全です。しかし、端的に言えば、老化です。無理のないよう、余生を過ごしているといった感じです」

「ここで優雅な療養生活を送るには、それなりの経費が掛かるのではないか?」

「ローツ自身は質素な暮らしをしていたようです。母一人、子一人の暮らしですし、主任監視官の給料は悪くありません」

 マルトは少し笑ったようだった。

「こちらも細かい資料をお送りします」

「ああ、頼む」

「それと、治安部の若者が祝賀会で使う店でしたね? リノという店です。データをお送りしましょう」

「ありがとう」

「しかし、治安部の祝賀会に何故ご興味が?」

「私の担当窓口になるアロ・タンベレという男が招かれているのだ」

「それだけですか?」

「治安部の動きを知りたい。きっかけを作るには手ごろだ」

 私はさらに声を落とした。

「あの」

 通信を切ろうとする私をマルトが慌てて遮った。

「ラビスミーナ様、連絡を密にしてくださるとありがたいのです。御身が心配ですので。お願いいたします」

「ありがとう、そうする」

 通信を切った。外を見ると、にわか雨が降っていた。かなり強くて、私をつけてきた男の姿は見えない。私はふと興を覚えてY&Kネットの画面を保留にし、今日のハルタンの気象を検索した。G945年6月20日(Gとは我々が海底にこのセジュを開く以前使っていた地上年のことだ)、場所は大陸東部、我々のかつての地上国セジュの首都の天気だった。セジュの気候管理プログラムは、地上のある年の気象をランダムに選んでいる。災害等、無理のある天候はなるべく避けるが、それも必ずではない。我々は地上のことを覚えていなくてはならない。新しい生き方を探ると同時に。

 店を出た。雨は止んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ