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案内の男は、その見た目ほど堅苦しくはなかった。彼の他愛のない話を聞きながら無機質の通路を歩く。通路の脇に並ぶ部屋はどれも明るいガラス張りで、中で働く人の姿が見える。これもどうだろうか。私ならごめんだ。ここの職員たちがどう思っているか知らないが、あまりに整いすぎて、無菌室にでもいるのではないか、いや、モルモットにでもなったのではないかと錯覚してしまいそうで、どうも落ち着かない。その先にひときわ広いエリアがあった。ここばかりは銀色のメタル製のドアだった。
「失礼します、タンベレさんはいますか?」
ドアを開いて、案内の男が聞いた。
「もう帰ったわ」
奥からすぐに返事が返ってきた。
「どうします?」
案内の男が私を振り返る。
「ここが情報管理室?」
「そうよ、私はローラ・マイスキー、ここの副室長だけど、タンベレさんに何の御用?」
副室長のローラは、もう帰っていいと案内の男に目で合図した。案内の男が頷いて帰って行く。
「私はY&Kネットのセシル・フレミングと言います。治安部の電脳のメンテナンスと、いくつかのご提案があって来たのですが……担当のタンベレさんがこちらだとお聞きして」
「そうね、こちらの電脳は新しくしたばかりだけど、向こうは旧式のままだから確かに念入りなメンテナンスは必要よ。でも……どうしてあなたの担当がタンベレさんなのかしら?」
「カプリマルグス秘書官がそのように警察課の課長に命じていらっしゃいましたわ」
「カプリマルグス秘書官……なるほど、そうでしょうね」
「副室長」
鋭く目を光らすローラに、近くの職員が目くばせした。
「別に隠す必要もないわ。カプリマルグス秘書官は実力者ですもの。たとえレンからやって来た優秀な若者でも、彼ににらまれたら出世が遅れるわ。そういうことよ。それにしても、あなた……最新技術とファッションが一致しなくてはならないという決まりはないけれど……」
ローラは上から下まで私を見て苦笑した。
「ローラ」
別の職員が慌てて声をかける。私はいたずらっぽく笑って見せた。
「これですか? 祖母のお古ですよ。気に入っているので着ているのです」
「そうなの? 私、余計なことを言ってしまったようね」
「いいえ。率直なご意見、感謝しますわ」
「まあ」
ローラ・マイスキーは愉快そうに笑った。
「タンベレさんは新入りさんに宿舎を案内するって言っていたわ。会いたいなら地下の駅まで送りましょう」
「副室長、私が行きます」
立ち上がった職員をローラ・マイスキーはとどめた。
「あなたは仕事を続けて」
「でも」
「いいのよ。体を動かしたいの」
彼女は自分の丸い下腹部のあたりを指差し、私を連れて情報室を出た。




