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巨大なハルタンの庁舎には幾つも入り口があるが、エアカーは一番大きな正面入り口前で止まった。そこは広々としたロータリーで、ビルに用がある人が忙しく行き来している。
ハルタン庁舎は初めてではない。治安部長には仕事柄、何度か会ったこともある。治安部長になったばかりで、それは私と同じだったが、彼は六十代で行政の経験豊富であるらしかった。確か、フリードリヒ・ハイダーと言っていた。この姿で会って私だとわかるとも思えないが、顔を合わせないに越したことはない。私は一回り見回した。当然ながら、治安部長がホールでうろうろしているようなことはなかった。こちらを見ていた総合案内係に予約があることを告げると、総務に行くよう言われた。
ホールではあまり人目を引かなかったが、奥に入るとすれ違う職員によく振り向かれた。この恰好は少し印象に残りすぎるのかもしれない。これは検討の余地があるかもしれないと思ったが、ここまで来て変更はできない。
総務は庁舎の六階にあった。
「こちらは初めてですか? 以前の、何と言ったかな……」
総務の受付にいた男は人懐っこそうな笑みを浮かべて私を見た。
「カール・アルトですか?」
私は聞いた。前任者についてはすっかり頭に入っている。
「ああ、そうそう、アルトさんはどうしました?」
「今はゼフィロウで内勤です」
「なるほど……治安部のシステムのメンテナンスと新システムについての提案だそうですが、現在立て込んでいると治安部の方では言っていますが」
「そちらからの申し入れでやって来たのですが?」
「わかっています。が、ここのところ忙しいらしいんですよ」
「手短に済ませて引き上げましょう」
「そうしてもらえると有難いです」
男は治安部に連絡を取った。
庁舎の一階から五階は福祉・医療・衛生など住民の暮らし全般を担当する市民サービスが中心だ。六階に総務部、その上に法務部、治安部、情報管理室、情報部、財務部、医療研究部があり、最上階がハルタンの最高委員会が集まるフロアーとなる。
地下にはサブウェイのステーションをはじめ、治安部の武装装備の一部や車両置き場、資料保管庫があり、緊急時に作動する電脳システムや備蓄庫も完備しているはずだ。
六階から直通のエレベーターで治安部に上がると、治安部の受付には堅苦しい制服を着た男がいた。背が高く、がっしりとした体格。骨ばった顔の窪んだ眼が私を捉えた。
「Y&Kネット社の営業社員セシル・フレミングと申します」
「お話は伺っています。認証をお願いします」
受付の電脳を呼び出し、男は慣れた手つきで私のブレスレットから送信される偽の思念を確認した。
「どうぞ」
私を中に案内する。
仕事をしている職員たちの視線がさっとかすめた。治安部はどこも同じような空気だなと思った。中でも、この一室にいる彼らはわかりやすい。治安部内の警察課に属していると見えた。
「こちらです」
案内した男は奥のドアを開けた。が、ソファーの置かれた先のデスクには誰もいない。
「おや? マイト課長、いらっしゃいませんか? マイト課長? 奥かな?」
男は奥の部屋を覗いた。そこは警察課の休憩室になっていて、数人が話し込んでいる。