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「父上」

 父の居室の大きな扉の前で呼んだ。

 扉が開く。

 父の部屋は、父の趣味を凝縮したようなものだ。私でさえ、この部屋の装置については半分も知らないのではないだろうか。通された客のため、高価な家具や調度が置かれてはいるが、壁の向こうに隠された大きなスクリーン、そして間違いなくゼフィロウ最高の電脳が絶えず動いている。

「入りなさい」

 父は言った。

 父の侍従がお茶の用意を始めた。

「会議が終わったようだな」

「はい、たった今」

 父がソファーを示す。

「メヌエットがここに保管されていたら、盗まれることもなかったでしょうね」

 思わず、言ってしまった。

「メヌエットは、私の私物ではない」

 そう、それがセキュリティーの面で最善だとしても、公私混同はいけない。

「父上、ゼフィロウから持ち出された三つのメヌエットの行先は、どれもハルタンでした」

「ああ、送った者、ヨーク・ローツと言ったかな、彼は任を解かれる」

「彼は自分の関与を認めました。今は取調室です」

「ずいぶんあっさりと認めたな」

「はい。ですが、ローツが会議で言った以上のことをそう易々と語るとは、私には思えませんでした。情報部はヨーク・ローツの背後を洗い、メヌエットを受け取った架空の製薬会社を調べるでしょうが、父上、ハルタンにある総領事館も動いているのでしょう?」

「動いている。が、ハルタンにこれといった明らかな動きは見えないそうだ。今のところは」

 幾分いくぶん煮え切らない返事だ。

「今回のこと、つまり、ローツがハルタンにメヌエットを送る以前に、ハルタンから何らかの接触はありましたか?」

 私は聞いた。何しろ、メヌエットだ。盗むくらいなら、何らかのルートを通して打診することもあり得ると思ったのだ。が、父上は首を振った。

「ない。少なくとも、私には。接触があった者がいたかどうかは、これから調べねばならない」

「保管庫からメヌエットを盗み出した人物について心当たりは?」

「特には……ない。最高会議では、レンに調査を依頼することになったようだな」

 淡々と言って私を窺う父上に、私は肩をすくめて見せた。

「何もかもご存知ですね。父上も真っ先に調べられますよ」

「ああ、お前もな」

「望むところです」

 私は頷いた。

 私を養女とした父、エア・ファマシュ。父は領主として外交を行うだけでなく、自身の研究を大切にしている。黒髪に緑の瞳。私も黒髪だが、私の瞳は青みが強い。私たちは一目で親子とわかる風貌をしているとよく言われる。人は父の容貌とその知性、あるいは父の持つ優雅さといったものに惹かれるようだが(おかげで大概の者は忘れているかもしれないが)、ゼフィロウを短期間で財力、影響力ともに他の核から抜きん出た存在としたのは父の功績だ。その父が、核の根幹である行政に無頓着であるはずがない。ゼフィロウの行政機関が置かれた白亜の庁舎。住民の生活を守り、その福祉を進めるために、日々職員は努力する。ゼフィロウが抱える問題に対処するため、取るべき方法が提案され、議論され、実行に移される。その頂点に立つ最高会議……私はたった今そこからこの部屋にやって来たのだが、ここに来て、父に会うとわかる。このゼフィロウ全てを牛耳っているのは、この私の養父エア・ファマシュであり、最高会議にしても一つの機関、極端に言えば、名目に過ぎないのだと。父はあらゆることを知る手段を持ち、自分の手足として動かす人々を(表でも裏でも)抱えている。

『ゼフィロウ領主の娘……どれだけ恵まれているんだ』か……ヨークの言葉を思い出した。



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