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「さあ、どうする、ヒビヤルド? リン・メイを返してもらおう」

「そんな……肝心な時に……聞け、考えてみるのだ。ある時は単為生殖をし、ある時は有性生殖をする。これは生物の形としてはさほど珍しくもない。だが、それは全て雌が行うことだ。それに比べてリンは男で……芽とも呼ぶべき分身を作る。しかも、その分身が大きくなると自身は死ぬが、その記憶は分身に残るのだ。ということは、だ。新しい自分はまた、かつての自分でもある。連続しているのだ。これはある意味では不死だ。一方で有性生殖を行ない、そして一方では、再生することで若さを保つ。なあ、ゼフィロウのラビスミーナ殿、これは素晴らしいことではないかな?」

「さあ、何とも」

「何だと? 私の言うことがわからぬか。愚か者め」

「愚かで結構だ。リン・メイ、来い」

「そうはさせるか」

 ヒビヤルドはリン・メイに銃を突きつけ、用意してあった透明のカプセルに押し込もうとした。

「嫌だ」

 ヒビヤルドの銃が唸りを上げ、ヒビヤルドがゆっくりと倒れる。

「リン」

 マリアが駆け寄った。ヒビヤルドの銃はリン・メイの手にあった。ヒビヤルドは胸を撃ち抜かれ、絶命していた。

 表で大きな爆発音がした。

「ハルタンの治安部が到着したな」

 私はマルトを呼んだ。

「マルト、こちらの仕事は終わった」

「パイアール議長は?」

「ヒビヤルドの罠にはまって閉じ込められている。ヒビヤルドはもう死んでいるようなことを言ったが、簡単に場所の特定はできないはずだ。そして、そう言ったヒビヤルドも死んだ」

「ヒビヤルドも?」

「ああ。後はレンに任せよう。私は、これからマリア、リン・メイ、そしてアロを連れ、総領事館に行く。オルクでまずマリアとリン・メイを送る」

「承知しました。総領事館にこもってしまえば、ハルタンの治安部もむやみに手を出せません。もし、やってくるようなら、ゼフィロウの実力を見せてやりましょう」

 一見冷静なマルトがこの状況を楽しんでいるのは明らかだった。胸に下げたチェーンから抜き取った指輪をはめ、思念でオルクを呼んだ。

「さて、メヌエットはどこだ?」

「ヒビヤルドノ ダイサンノ デンノウ」

 オメガが答えた。

「それは?」

「この壁の中だ」

 リン・メイがテーブルの上に置かれた小さなボタンを押すと、壁が開き、厳重に保護された大型の電脳が現れた。それをさっと見たリンは、豆粒ほどのメヌエットを抜き出して私に渡した。

「ありがとう」

「しかし、これは厄介なものだな」

 リンが眉を寄せた。

「使いようなのだが……さて、ヒビヤルドがメヌエットを使った履歴は残っているだろうか?」

「この電脳を調べれば可能だろう」

「ハルタンチアンブイン サンジュウニン、ロクグループニワカレテ ソチラニ ムカッテイル」

「今、この電脳を運ぶわけにはいかないな」

「隠しておこう」

 リンがボタンを押して壁を元通りにし、そのボタンを近くにあった顕微鏡ケースの中にしまった。

「さあ、長居は無用だ」

「カレラノ シンニュウヲ ソシスル」

「ありがとう、オメガ。そろそろオルクが来るころだ」

「ラビスミーナ、オルクって?」

 マリアが聞いた。

「ああ、私の愛車だ。それに乗ってマリアと一足先に総領事館へ行ってくれるか、リン?」

「リン」

 マリアがリンに寄り添う。リンが頷いた。研究室は頑丈な壁と扉に守られている。が、外からは相変わらず爆発音が聞こえていた。

「治安部の工作隊なら、ここに通じる扉も壁も破られる。時間の問題だ」

 アロが言った時だった。ひときわ大きな衝撃とともに壁が破られた。だが、現れたのは私のオルクだ。

「マリア、リン乗れ」

「いきなり操縦できるかな?」

 リンがたじろいだ。

「自動で総領事館に着く」

「よし、マリア、行こう」

 マリアとリンがオルクにまたがる。

「行け、オルク」

 スムーズな動きで、集まって来たハルタン治安部員たちを蹴散らし、オルクが走り出した。もちろん、オルクは陸海空に対応している。廊下に出たオルクは窓を破って総領事館に向かって飛び去った。


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