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「タンベレさん、何を、するの……?」

「タンベレ、さあ、マリアをこちらへ。おっと、動かないでもらおう」

 パイアールが私に言った。アロの指が銃の引き金に掛けられ、銃口はぴたりとマリアに向けられている。

「放して」

 アロに引きずられてマリアが叫んだ。

「うるさい」

 アロからマリアを預かったパイアールの顔に笑みが浮かぶ。

「おい、誰かこの女を動力機械に固定しろ」

 すぐにパイアールの側にいたハルタン治安部の男たちが動いた。マリアを危険にさらすことはできない。彼らが特殊な繊維を取り出して、私を太い金属に縛り付ける。

「アロは、まさか……」

「そう、あなたの考えた通りだ。タンベレには私の命令に従うよう暗示がかけてある。あのメヌエットを組み込んだ電脳を使ってね。あなたと通じているタンベレならば、使えると思ったが、早速その機会が来たってわけだ。さあ、タンベレ、この女を絞め殺せ」

 アロが顔を上げ、空洞の目を私に向けた。

「ゼフィロウのメヌエットで殺されるがいい。邪魔をするのが悪いのだ」

 パイアールが声を上げて笑った。冗談じゃない。私は付け爪を素早く動かしていた。私を動力機械に固定したこの繊維を切るのが先か、アロに絞め殺されるのが先かだが、黙ってやられるものか。

「アロ、私だ。目を覚ませ」

「無駄だよ。タンベレは暗示にかかっているのだ。私が命令した以上、もう私の声しか耳に入らない。本当なら、私があなたを絞め殺してやりたかったが、犯人の証拠が残った方がいいだろう? あなたの首にはタンベレの指の跡がはっきりとつくはずだ。その後にその顔を溶かしてやろうか。誰もが賛美するあなたの、父親、おっと養父だったな、その彼にそっくりな顔を。ふふ、それも溶けてしまえば、ただの肉塊、そして骨だ。醜い姿を晒すがいい」

「やめて……」

 震えるマリアをからかうように見てパイアールは続けた。

「自らハルタンまでやって来て、遺棄された遺体の発見者に出会った。ハルタン治安部に入り込み、当局とあの電脳チップ、メヌエットとの関係を探ろうとした。トゥヌ・クルヴィッツの死を知ってエッレル卿のものだったリジエの施設も訪れた。次はジャン・ブロムの死だ。エッレル卿、ヒビヤルド、ヨーク・ローツ。そこまでたどり着いたお前は、ブロムが私と出かけたことを知って、私を疑い出す。そして、今までのことが腑に落ちる……メヌエットをハルタンに渡したのはこの私だと。そうだろう? お前は私に迫って来ていた。ハルタン治安部に潜入したお前なら、近いうちにここへもやってくるだろうと思った。そして、とうとうこのざまだ。お前はこの研究棟に入り込んだが、たまたまそこにいたハルタン治安部のこのタンベレに、不審な侵入者として殺されるのだ。私の勝ちだな。お前は身の程をわきまえること、それを学習するべきだった。それが、お前が生き延びる条件だったのだ」

 学習か……こんなことに頭を突っ込まず、ただ与えられた地位と役職に胡坐をかき、危険なことは部下に任せ、都合の悪いことからは目を逸らし、耳をふさぎ、全てから守られていることもできるのだ。『ラビス、ラビスミーナ、どうか幸せに』叔母アエルは言った。あの時、私の幸せを心から祈っていた。自分が死ぬその時に。忘れられるものか。ここで挫けたら、私は私でいられなくなる。罪もない叔母や両親を殺したような奴に怯え、屈することになるのだ。アエル叔母様だって、命を懸けたのでしょう? 私だけ弱虫になるわけにはいきません。そんなことはまっぴらだ。第一、不公平ですよ……

 アロが一歩、また一歩と私に近づく。そのアロに、もっともらしい顔でパイアールは言った。

「タンベレ、あいつはセジュの敵だ。ハルタンの医療行為を妨害し、助かるかもしれない多くの患者を見殺しにしようとしているのだ。あいつは人の死を弄ぶ」

 どっちがだ。私は心の中で毒づいた。だが、パイアール、お前はせいぜいおしゃべりを続けるがいい。拘束された私に逃げ道はない。すぐには……もう少し時間が稼げれば、私の付け爪が私を縛り上げたこの繊維を切る。それにしても……私の戦闘用スーツは首まで覆っている。銃弾や被弾物なら、ある程度防げる。だが、人の手では……アロは簡単に私のスーツの襟を開いた。アロ……アロの指が私の首にかかる。

「アロ、ナオミが心配していた。自分のせいでマリアを危険な目に合わせたかもしれないと」

「……」

 私の首に触れていたアロの指先がわずかに私の首から離れた。

「そうだ、今ならまだ間に合う。マリアを助けてナオミを安心させてやれ」

「タンベレさん、止めて」

 マリアがパイアールの手を振りほどこうと暴れた。


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