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「ファマシュ……生まれついた時から、地位も、富も、何もかも思いのまま。どれだけ恵まれているんだか」

 思わずこぼれた彼の言葉に、ジャンとエドモンドは驚き呆れ、ケイティーは面白そうに私を窺った。

(どれだけ恵まれている、か)

そんな言葉には慣れているし、ローツの言いたいことはわかるつもりだ。今までも……たとえ言葉に出さなくとも、人は多くのことをその身で相手に伝えるものだ。

「唐突だな、ローツ」

 イアンが皮肉な笑みを浮かべた。だが、開き直ったのか、今ではローツ自身も同様な笑みを浮かべている。

「ローツ、何を言い出すのだ」

 一息遅れて、上司のエドモンドが声を荒げた。

「これは、部長、失礼致しました。しかし、事実じゃありませんか? ゼフィロウ、ゼフィロウと言うが、もっと大きなもののために生きるべきだ。こっちは人より恵まれたものなど何もないが、それでも……こんな私にだって、信念があるのですよ」

「信念……信念だと?」

 情報部長のイアンが目を細めた。

「どうやら荷の中身が違法とわかっていたようね。それにしても、信念とはね。自分のしたことを正当化したいのはわかるけど、大袈裟だこと」

 ケイティーが冷笑した。ローツの顔に赤みが差す。

「何だと、偉そうに。私は……俺は、自分のやったことを背信行為とは思わない。俺はな、ゼフィロウなんてちっぽけなものを考えているんじゃない。未来のセジュのためにしたんだ。俺は自分のしたことを誇りに思っている」

「ローツ、やはりお前は、自分のしたことがわかっていたのだな」

 エドモンドはついに冷静な面をかなぐり捨てて声を張り上げた。まあ、無理もない。どこから見ても従順に仕事をこなしていた部下が、実は職務を利用し、法を曲げていたのだ。ざわついた会議のメンバーを面白そうに見渡すローツは、呼び出されて部屋に入ってきた時のおどおどした男ではなかった。

「エドモンド部長、あなたの目は節穴だ。俺がわけもわからず荷を送るほど間抜けだと思ったか?」

 勝ち誇ったような部下に対して、エドモンドは蒼白だった。

「この、裏切り者め……」

「ヨーク・ローツ、いったい、どこがセジュのためだと言うの?」

 ケイティーが迫る。

「答える必要はない」

 ローツは落ち着いて、堂々としているようにさえ見えた。

「ローツ主任監視官、沈黙はあなたに保障された権利だ。だが、あなたがルール違反を犯したことは明白だ。あなたはそれを認めた。あなたは犯した罪の罰を受けなければならない」

 パイアール議長がインタホンに向かって言った。

「ローツ主任監視官を拘束しろ」

「勝手にしろ。だが、いつまで俺を拘束しておけるかな?」

「あれだけのことをやっておいて、罪にならないとでも思っているの?」

 ケイティーが吐き捨てたところで警備員がやって来た。

「いつかお前たちも私のしたことの恩恵を受ける日が来るだろう。その時にはせいぜい俺に感謝するのだな」

 最高会議のメンバーを一瞥して、ヨーク・ローツ主任監視官は警備員に連れられ、会議室を出て行った。

「エドモンド、さっきは途中で話を止めてすみませんでした。我々が掴んでいる情報はできるだけ伏せておいた方がいいと思ったので」

 静まり返った部屋の中で私は言った。

「こちらがどこまで知っているか、それをただで教えてやる必要はないということだな?」

 情報部長イアン・レオがにやりと笑った。

「その通りだな」

 エドモンドが答え、他の者たちが頷く。

「それにしても、ローツのあの自信はどこから来るのかしら?」

 ケイティーにイアンが答えた。

「背後に誰かがいるな」

「それを調べてもらわないとね」

 ケイティーが頷く。 

「まずは情報部にメヌエットの行方と盗んだ犯人の手掛かりをつかむべく全力を尽くしてもらいたい。レンの報告を待ち、その後、必要に応じて治安部には動いてもらおう」

 こう言ってパイアール議長は一同に会議の終了を告げ、メンバーは言葉少なに部屋を出て行った。私は庁舎地下に向かった。そこにある治安部用のパーキングにオルクが置いてあるのだ。オルクは私が離れるとシールドで覆われるので誰も触れることができない。私は思念でシールドを消し、オルクに乗った。それにしても……保管庫は庁舎の、最高会議室の下の階にある。ゼフィロウの行政の中心、となれば、庁舎のセキュリティーは万全のはずだった。まして、保管庫ともなればなおさらだ。保管庫にはメヌエット以外にも、ゼフィロウ、いや、セジュのシステムを維持するための重要な品々や情報が保管されているのだから。庁舎では多くの者が働いているが、保管庫に入ることができる者は限られている。そして、入ることが許される者でも、入れば保管庫を開いた時の思念という動かしがたい証拠が残る。だが、今回はその証拠がきれいに消されている。その技術は少数の者だけが知っていて、技術開発部長のジャン・ブロムもいったん消されたものは回復不可能と言っている。内部の犯行に脆いこと、そして思念認証に頼りすぎた結果だ……城まではあっという間だ。森を抜けて正面入り口わきにオルクを置いて、私は父に会いに行った。


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